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テレビ、ラジオ、Twitter、ニコニコ生放送、Ustream……。マスメディアからソーシャルメディアまで、新旧両メディアで縦横無尽に活動するジャーナリスト/メディア・アクティビストの津田大介が、日々の取材活動を通じて見えてきた「現実の問題点」や、激変する「メディアの現場」を多角的な視点でレポートします。津田大介が現在構想している「政策にフォーカスした新しい政治ネットメディア」の制作過程なども随時お伝えしていく予定です。

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オリンパス元専務が語る「オリンパスが再生に至る唯一の道」とは (津田大介の「メディアの現場」Vol.11より)

津田マガ記事


(※この記事は2011年11月16日に配信された記事です)

今回は監理ポスト行きで揺れるオリンパス問題がテーマです。解任されたウッドフォード氏を同社に呼び戻し、再建を目指す運動を始めたオリンパス株式会社元専務取締役で、オリンパスメディカルシステムズ株式会社元社長の宮田耕治さんにお話を伺いました。

宮田さんは11月11日に「olympusgrassroots.com オリンパスの再生に向けて、社員が立ち上がるサイト」を立ち上げ、オリンパス内外から多くの共感を集めています。反面、1995年から2006年までの期間取締役として経営に参加していた宮田さんに対して厳しい指摘も外からは寄せられており、そうした指摘に対してウェブサイトで一問一答形式で答えることもしています。

宮田さんはどのような思いでこのサイトを立ち上げたのか。オリンパスの行く末はどうなるのか。一連の騒動を元「中の人」はどう捉えているのか、オリンパス問題を考えるもう一つの視点としてお読みください。

 

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◆オリンパス元専務が語る「オリンパスが再生に至る唯一の道」とは

 

津田:わずか2週間の間に2度にわたる社長の交代劇が起き、巨額の粉飾決済が明るみに出るという、一連のオリンパスの報道を最初に耳にした時、どのような感想を抱かれました?

宮田:やっぱりショックでしたよ。私が聞いた限りでは、オリンパス従業員もほとんどが「信じられない」と言ってますね。

津田:社員にとっても寝耳に水だったわけですか。

宮田 おそらく一番驚いたのが従業員だったんだと思いますよ。10月14日にCEOを解任されたMr.(マイケル・)ウッドフォードが、その後、海外メディアのインタビューで「不明朗な資金の動きがある」と答えた時、つまり、社内で株主価値を毀損する事態が起こっている疑いがあることを知っただけでも驚愕だったとは思うんですけど、決定打は11月8日の高山修一オリンパス社長の会見ですよね。あれで、本当に1000億円近くの損失隠しが行われていたことを会社として認めてしまった。[*1] 私を含め、多くの従業員やOBたちが本当に打ちのめされたんじゃないでしょうか。そして、11月10日に株式が監理ポストに送られたころから、私の中に「なんとかしなきゃ」という意識が芽生え始めたんです。

津田:一部上場企業の株式の監理ポスト入りはその会社の関係者でなくともショッキングなできごとですから。僕にすら宮田さんが焦る気持ちがわかるような気はします。

宮田:監理ポストに入ってしまえば、あとは時間の問題。何も手を打たず、ただ待っていたら、あっという間に上場廃止になってしまいます。オリンパスのような上場企業にとって、上場廃止は「死刑宣告」なんです。確かに理屈の上では、上場廃止になってもなんらかの再建の道は残されているはずです。でも「会社が自立して、営業を続けられる」という確信は失われてしまうし、そういう誇りがないとやっぱり企業って立ちゆかなくなってしまうんですよ。

津田:実際に上場廃止になるおそれはあると思いますか。

宮田:東京証券取引所の上場規定施行規則によって定められた12月14日までに決算書を提出できなければ、上場廃止です。私は決算書の提出はムリだろうと思っています。過去、粉飾してきた数字をすべて訂正しなきゃならない上に「これで粉飾、誤りはすべて修正しました」と言えなければ、市場から相手にされないどころか、アウトなわけですから。さらにそれができたとしても、そのあとには粉飾という事実が市場に与える影響の大きさとも戦わなければならない。だから、もう私も立ち上がらざるを得ないということになったんです。

津田:「“もう”立ち上がらざるを得ない」ということは、以前からオリンパスの動向を気にかけていらっしゃった?

宮田:Mr.ウッドフォードがCEOを解任された10月14日の2~3日後くらいから徐々にそういうことを考え出してはいました。

津田:今回の騒動は、7月に経済誌「FACTA」(ファクタ出版)がオリンパスの資金の動きを報道したことが引き金になって起きたわけですが、[*2] 「FACTA」が発売された直後、実際に記事はお読みになったんですか。

宮田:店頭で買えない定期購読専門誌なので、最初から直接記事や見出しを目にしたわけではないんですけど、友人から「こういう記事があるけど、お前、何か知ってるのか?」というメールがあったんです。ただ、その時は、その友人や私の主観も入っているんですけど「『FACTA』はかなりセンセーショナルというか、暴露系の記事が多いから全面的に真に受けるかどうかは別。ただ、本当だったらヤバいよね」という話をしただけだったんです。ところが、そののち、 Mr.ウッドフォードから「事実確認のために動き出す」という連絡があったんです。実は彼とは24~25年にわたる友人でして……。

津田:あっ、そうか。ウッドフォードさんはオリンパス・ヨーロッパ・ホールディングの出身ですもんね。

宮田:ええ。そういう関係もあって、退職してからも、彼の息子さんが来日する時にはちょっとお世話をしたりという関係が続いているんですよ。それもあって、Mr.ウッドフォードから「ほっとけないんで、自分でできる限りの調査をしてみる」「絶対にやらざるを得ない」という連絡を受けたんです。

津田:ウッドフォードさんはオリンパスのCEOに就任して解任される、この10月以前から不正を追っていたんですね。

宮田:そうですね。私自身、彼が(英国の経済紙)「フィナンシャル・タイムズ」のインタビュー [*3] を受けているのも見ていますし。ただ、当時の私には、どこか「それは間違いなんじゃないか」という意識もあったし、しかも、10月1日には、そのMr. ウッドフォードがCEOに就任した。だから「あっ、これはすべて解決したんだな」と思っていたんですよ。

津田:ところがなにも解決してはいなかった。

宮田:「FACTA」の記事の主旨は「オリンパス経営陣が無謀なM&Aで会社に損害を与えているが、それが“オリンパス”というのれんに隠れてしまっている」「のれんを一枚めくって店の中を厳しく評価すれば、巨大な損失が明るみになるんじゃないか」というものです。それを受けて、実際に調査をしていた Mr.ウッドフォードは、報道がほとんど事実であることを突き止めた。しかも、あとから聞いた話なんですけど、彼は自分で判断するだけでなく、プライスウォーターハウスクーパースという世界的に有名な英国の監査法人にも調査依頼をかけていたんです。普通、監査法人の調査レポートって「ここにこんな疑いがある」「この点についてはさらなる調査が必要」という書かれ方をするものなんですけど、Mr.ウッドフォードの持ち込んだ案件に限っては「疑う余地もない」「まったく常軌を逸した経営判断をしたか、何か別の事情があったのか」──そう締めくくられていたんです。

津田:だから、ウッドフォードさんはその事実を取締役の方々に突きつけた。

宮田:ええ。経営者でありながら、株主の代表でもある企業の取締役には法律上、「善良な管理者の注意義務」(善管注意義務)というものがあるんです。もしも、プライスウォーターハウスクーパースのレポートの指摘するような事実があるなら、取締役は善良な管理者として注意喚起しなければならない。だから、 Mr.ウッドフォードはそれに基づいて行動した。「経営陣が損失隠しに関与していたことは疑いようもない」「Mr.キクカワ(菊川剛・オリンパス前会長)とMr.モリ(森久志・オリンパス前副社長)は責任を取って辞任してほしい」「すべてを自分に任せてほしい。すべて公開してどうにか対処するから」と。しかし、結果、どうなったかというと……。

津田:ウッドフォードさんがクビになったと。

宮田:善管注意義務を怠っている以上、もはや現在の経営陣は、これまでのように株主の委託を受けて経営を続けていく正当性を失しているはずなんですけどね。

津田:“たられば”の話になってしまいますが、ウッドフォードさんがプライスウォーターハウスクーパースのレポートを現経営陣に突きつけた時点で菊川前会長たちが「わかりました」と呑んでいれば、ここまでの事態には……。

宮田:ならなかったでしょうね。Mr.ウッドフォードがCEOを解任された時期から考えて、10月上~中旬には損失隠しの事実が取締役の集まる場で明らかになっていたはずです。そして、9月期の決算書の提出締め切りが11月14日。1カ月の猶予があれば、隠していた損失分を訂正した決算書を制作できていたかもしれない。ところが、実際にすべてが明るみに出たのは、高山さんの会見のあった11月8日。1週間足らずで完全な決算書を作成することなんてできるわけないですよね。決算書未提出で監理ポスト入りになるのは必然だったんです。

津田:それだけに誰かがアクションを起こさなければならないのはわかります。ただ、宮田さんはもうオリンパスに籍はないですよね。

宮田:ただの年金暮らしのおじいちゃんですから(笑)。

津田:にも関わらずアクションを起こした理由は?

宮田 実は私、親子2代でオリンパスに勤めているんです。私の社歴が42年で、父が44年。

津田:お2人で90年弱!

宮田:同時に勤めていた時期があるから“のべ”ですけど、86年ですよね。それだけに、このまま何もしないでオリンパスが野垂れ死んでいくのを見ていることはできなかったんですよ。そして、今回一番気になったのは、大騒ぎされている理由の本当の核心である、オリンパスのガバナンスの問題。オリンパスの従業員はコーポレートガバナンスの重要性をどこまで理解しているのか。それが心配だったんです。というのも、日本の企業はほとんどがそうだと思うんですけど、出世コースをだんだん上がっていければ、ある時、取締役になれるわけですよね。本人のイメージとしては階段を上っていく際の一つの段という感じだと思うんですよ。ところが実際は、社員と取締役って全然違うものなんですよ。取締役になるためには一度退職して、従業員という肩書きを捨てることになる。そこには明確に断絶と、ガバナンスに対する責務を追う立場になるという事実が存在しているんです。ところが、特に今回のオリンパスを見ていると、明らかにその教育がなされていないし、リテラシーも育まれていない。だから、自分たちに不都合なことを明らかにしたがらないなんてことが起こるんですよね。Mr.ウッドフォードだけが正しかったことに今も気づいていないのかもしれませんね。

津田:実際のところ、ウッドフォードさんが今回起こした一連の行動に対して現役社員の方々はどう評価しているのでしょう?

宮田:それがまさに愕然とした点なんですけど「ウッドフォードはオリンパスを破壊した」「取締役であるにも関わらず、社内機密を外部に持ち出して、その責任を追究するようなマネをした。結果として会社は大きなダメージを負ってしまった。許せない」「復職させるとは何事だ」という声が少なくないんです。

津田:ここまで不正が明るみに出た今もですか?

宮田:だから、社員の企業統治に対するリテラシーが低いだけではなく、何かMr.ウッドフォードを貶めるための情報が意図して流されていたのではないかという気もしているんです。私はいま社内の人間ではないんで、確実でなことは言えないんですが、たとえば「Mr.ウッドフォードが解雇された理由は『カメラ事業を即捨てるべきだ』と迫ったものの、菊川会長から『それはできない』という対立があったから。だからMr.ウッドフォードが帰ってくれば、カメラ事業は即座に終わる」「我々がコスト削減の血の出るような努力をしている時に、ウッドフォードはプライベートジェットで移動している」「ある月は日本に4日間しかいなかった。それで陣頭指揮が執れるのか」みたいな流言が社内に流れているらしいんです。

津田:噂話とはいえ、現在オリンパスに籍のない宮田さんの耳に入るくらいのレベルで流れてはいる、と。

宮田:幼稚園レベルの程度の低い話なんですけどね……。実際、Mr.ウッドフォードは代表取締役に就任して間もないころ、ある雑誌のインタビューでも同じ質問をされてるんですよ。「あなたが取締役になると、カメラをはじめ、収益性のよくない事業はどんどん切るんじゃないか」「何千人もが路頭に迷うことを危惧している向きもあるが、どうなんだ」と。そのときウッドフォードは「That’s ridiculous.(本当にバカげている)」と明確に答えてるんです。「これだけ素晴らしいカメラがどうして売れないのか?」「販売方法を見直さないといけないな」とも言っているんです。

津田:宮田さんのところにもウッドフォードさんに対するそういうネガティブな声は寄せられていますか?

宮田:ありますよ。従業員から「彼は独断専行だ」「組織を無視した」という声を聞くことはよくあります。ただ、どこの世界に「独断専行」ということが理由で最高経営責任者がクビになる会社がありますか。OBとして本当に恥ずかしくなりますよ(苦笑)。

津田:そして、宮田さんは、11月11日に「オリンパスの再生に向けて、社員が立ち上がるサイト」と銘打たれた「Olympus Grassroots」(http://www.olympusgrassroots.com/)をオープンされました。このアクションを起こそうと決断した時期は?

宮田:先ほどお話ししたとおり、Mr.ウッドフォードの解任以来「何かしなきゃ」と考えていたのは事実ですが、はじめはサイトを開こうとは思っていなかったんですよ。オリンパスっていうのは、この手のドラスティックな動きに非常に保守的に反応する会社ですから。だから当初は今私がやってるような「派手なことは絶対にやっちゃいけない」と思っていたんです。最初は小さい規模で始めて、だんだん広めていこうとしていた。現在もオリンパスに勤めている人間の中に1 人仲のいい部長がいるので、彼を基点に部長クラスをターゲットに少しずつ、それこそグラスルーツ(草の根)的に活動していこうと思っていたんです。

津田:それは宮田さんがお電話やメールで地道に直接交渉していくということですか。

宮田:直接はできないので、その部長を頼ってという形ですね。その人も「ウッドフォードが戻ってくる以外に再生の道はないな」と思っていたので、彼を通じて働きかけました。やっぱり直接現役社員の人たちにメールを送りつけるという方法は難しかったですね。OBからその手の文書が送られてくるというだけで、変なふうに読まれるんじゃないかという不安がありましたから。

津田:そこまで慎重にやられていた宮田さんが、サイト開設というある種の強硬手段に踏み切った理由を教えてください。

宮田:先ほども申し上げた監理ポスト入りが大きなきっかけです。実際の決定は14日でしたが、11月の第1週あたりから「ほぼ間違いなく監理ポストに入るだろう」という話は聞こえていたんですよ。なのでそのころ、その部長クラスの人と、もう1人、私の友人にジャーナリズム関係にいる人間がいるんですけど、その3人で食事をしながら「どうしようか?」なんて相談しているうちに「ウェブサイトを通じて私が呼びかける形でやってみようか」という話になったんです。

津田:宮田さんはインターネットにはお詳しかったんですか?

宮田:いや、今もそうですけど、私自身はインターネットに対するリテラシーは非常に低いです。私の世代の多くの方もそうだと思いますが、「インターネット、使えるよ」という人でも、あくまで使い方を知っているというだけで、若い方のように道具として使いこなしてはいない。だから、話が持ち上がった時も、私にはちょっとムリだ、と思いました。今のネットリテラシーで始めちゃっても、結局混乱を巻き起こすだけじゃないかと。そして、アクセスが集中してダウンしたなんてことになったら、なんの意味もないですから。それでなくとも、私は現役のころから、よく考えてからでないと行動できないタイプだったもので(笑)。

津田:ただ、上場廃止までほとんど時間のない状況では、いきなりアクセルを吹かさないと間に合わない、という危機感があったと。

宮田:確かに一定の期間に何か行動を起こさない限りはチャンスがない。そういう状況でした。だからこそ、ちょうどその話を聞いたまた別の友人が「オレがやってやろうか」と提案してくれたので、とにかくやってみることにしたんです。ただ、最初はやっぱりグラスルーツ。「実名でもいいから賛同する」と言ってくださる現役社員の方が2桁も集まればいいな、と思っていたんです。署名を集めるのを第1フェイズと考えるなら、24~25人くらい集まったら、それをコアにして第2フェイズへと移行しよう、と。そのくらいのスタンスで11月12日から始めようと思っていたんですけど、そのスタート前に、私の活動に注目してくださった朝日新聞の取材を受けたんですよ。そこで私は「11日に仮設のサイトは用意するけど、12日にならないと準備できないから」と申し上げたんですけど、11日の朝刊に載っちゃって(苦笑)。

津田:OBが声を上げてネットで広めていくという興味深い動きですから、メディアの人間からすればいち早く多くの人に伝えたいと思うのは当然かと。朝日新聞の気持ちもわかります。

宮田:11日はほとんどのページが「工事中」だったんですけど、それでも3名の方が「実名登録したい」と言ってくださった。だから「これはもしかしたら大きな動きになるぞ」と思っていたら、翌日の12日には11日の200倍のアクセスがあって「これはヤバい」と思ったんです。反響があったことがうれしかった半面、虚偽の登録があるんじゃないかという恐れもありましたから。

津田:話題のニュースだけに面白半分のアクセスも集まるだろうから、充分あり得ますよね。

宮田:そういう登録が多くなると、どれだけ人を集めても「いや、これゴミだよ」と言われてしまう。そして、そうなった時に善意で集まってくださった方までディスクレット(離散)してしまうのが一番怖かったんですよ。だから「登録してもいい」と言ってくださった人が本当に社内の人間なのか、それを内部の協力してくれる人に確認してもらうことにしたんです。そして、間違いないことがわかったら、今度はその人に「署名したメンバーとして○時に登録するが構わないか」という確認をとる。「本当に名前を残していいのか、よく考えてみてほしい」と。そうやって都合3回は考えてもらうプロセスにしたんです。ただ、これをやっていると1人の登録ユーザーを確保するのにものすごい工数がかかるんですね、とはいえ、私のようなOBが声を上げるのと、現役の方が立ち上がるのは全然意味合いが違う話ですから。

津田:現役社員の方は体制批判をすることにもなりますから、降りかかってくるリスクがまったく違いますよね。

宮田:ええ。彼らも生活がかかっているし、いろんなしがらみがある中でやってくださっているわけだから、「本当に慎重に」とお願いしたんですけど、12日現在で64人もの方が「実名登録で構わない」とおっしゃってくださった。しかも、そのうち7割は現役社員の方だったんです。

津田:そうなると、もはや、みなさんに確認をとるのは物理的にムリですよね。

宮田:そうなんです。開始から2日間で個人名、実名をターゲットにしたやり方に限界が来てしまった。ところが、13日にクリック方式、つまり「賛同する/しない」の「する」を選んでもらうだけの方式に変えたら、今度はアクセスが集まりすぎてサーバがダウンしてしまったんです(苦笑)。元々2桁の登録者が集まればいいと思って始めていたため、協力を申し出てくれた人が本来の仕事のために契約しているサーバの端っこを使わせてもらっていたんですけど、そうしたら同時に何名がアクセスできるという制限にひっかっかってパンクしてしまったんですね。

津田:開始から3日で徐々に認知が拡がり始めていたうえに、多くの方がツイッターなどで話題にしてましたから、そういう影響もあったんでしょうね。

宮田:あと、Yahoo!にリンクされたんですよ。

津田:あっ、間違いなく理由はそれですね。

宮田:そうして、私が考えていた「オリンパス社員が」「OBが」というスケールではなくなってきた。今ではレスポンスをくださる方の中に占めるオリンパス社員の割合はほんの少しなんです。大学の先生や「私が昔からオリンパスを使っています」っていう方が中心になっている。あっという間に社会現象になってきた。

津田:寄せられる意見の中に反対意見や批判はないんですか?

宮田:私宛のメールアドレスにレスポンスをくださる方の90%は「文句なく賛同する」と言ってくださっていますが、残りの10%はやっぱり「ウッドフォードは大丈夫なのか?」「○○という話を聞いているが本当か?」といった疑問や反論ですよね。その賛否のご意見もまたものすごい数なんですよ。

――1日100~200通くらいですか?

宮田:メールサーバを管理している人がチェックして「これは明らかに時間のムダだ」っていうのは省いてくれて「これは時間があるなら返事しろ」っていうのだけを送ってくれているんですけど、そのメールだけでもそんなオーダーじゃないですね。で、12日から現在までに142件のメールに返信しているんですけど、そういうやりとりの中で「今はこういう意見が主流だな」「もしこれが実現したらオリンパスにとっても、Mr.ウッドフォードにとってもカネになるな」っていう現実が大体見えてきました。そこで、今日(11月15日)からは、そのお客さんや従業員から受け取った情報やご意見、ご質問と、私の返信メールの内容をペアで出していくことにしたんです。

――(ノートパソコンでサイトを確認しつつ)あ、まさについさっき公開されたみたいですよ。

宮田:あっ、本当ですか。その最初のご質問の主なんですけど、この方、根っからのオリンパスのファンで株主でもあるんです。それだけに怒りに震えていらっしゃった。メールには3つの論点があったんですけど、まずは「お前は取締役だったじゃないか」「どういう立場でこういうことをやっているんだ。同罪じゃないか」。2点目が「ウッドフォードは取締役であるまじき外部に秘密を暴露しているにも関わらず、あいつが最後の望みをつなぐ存在だとはどういう意味だ」。そして3点目が「オリンパスがもし復活するとしたら、日本のユーザー、株主がサポートした日本人経営者がいいんじゃないか。それをなぜ日本語も読めない外人を連れてくるんだ」。

津田:確かに僕も少し疑問に思っていたんですが、宮田さんが現役で取締役をなさっていたころからガバナンスを問われる状況になった予兆はあったんですか?

宮田 取材をお受けしていると、いろんな方からそのことについて聞かれるんですけど、それに答えることだけはちょっと……。なぜかと言うと、今私がやっていることというのは、結果として、昔の同僚や友だちを追い詰めていることにほかならないんですよ。私はオリンパスを救うためにこれをやっていて、これしかないと思っているんですけど、それと同時に「昔の友だちを追い詰めている」「苦しめている」っていう罪の意識もあるんです。だから、私が今やっていることに対する取材にはお答えしますが「どうしてこうなった?」「こういうことはなかったのか?」というご質問は勘弁していただきたいんです。

津田:なるほど、了解しました。では、話を戻すと、先ほどお話しなさっていたレスポンスをくださる方のうちの10%の方の疑問や反論っていうのは、だいたいこの方のメールにある3点に集約される感じですか?

宮田 確かに多いですね。「集約される」とまでは言えないものの、傾向の一つではあります。だから、メールでお答えをお送りした時、この方に「このメールのやりとりをこのままサイトに掲載させていただきたい」とお願いしたんです。ユーザーの方の代表的なご意見であることは間違いないし、何より従業員に対してすごいインパクトがありますから。

津田:株主の声ですからね。

宮田:ええ。そうしたら「あなたの主旨はよくわかった。ただし匿名にしてくれ」とおっしゃっていただけた。だから、名前や個人情報こそ消したものの、ほかは未編集、無加工のまま、掲載してみたんです。

津田:そうした質疑応答によって明らかになった情報がマスメディアやネットを通じて拡がっていけば、オリンパス問題の背景を理解する一助になる。その意味ではとても有効な手段だと思います。ちなみに今後公開される質疑応答にはどんなものが予定されていますか?

宮田:明日(11月16日)公開するのは、大学の先生、オリンパスの内視鏡ユーザーのお医者さんからのメールですね。これが本当に恐ろしいメールで「昨日、大学の理事会で今後調達する内視鏡については、オリンパスしか生産していない製品以外については、永続的に他社製品に切り替える決定がなされました」「オリンパスには、今、国公立の大学や研究機関がコンプライアンスについてどれだけ厳しく考えているか、ということを理解してほしかった」「ただ、あなたのサイトを見て『あっ、それに気づいている人もいるんだな』と安心しました。絶対に内視鏡部門を潰さないでください」というものでした。ただ、恐ろしくはあるものの、今オリンパスが置かれた現状を知るのにこれほどの材料はない。だから、株主の方と同様に許諾をとって全文掲載することにしました。

津田:確かにオリンパスに対しては厳しい意見もある中、その先生に限らず「内視鏡事業だけは絶対に守ってほしい」という声も多く聞こえてきます。もちろんカメラファンも多いものの、公共性の高さから内視鏡事業の行く末に注目する人は多いですよね。そして、宮田さんはオリンパスメディカルシステムズの社長を務められ、「Olympus Grassroots」の中でも内視鏡事業の重要性を説いていらっしゃった。やっぱりオリンパス内部でも内視鏡は重要なウェイトを占めているものなんですか?

宮田:確かにそうなんですけど、あのサイトの文章は拙劣だった面もあるんです。私が申し上げたかったのは「日本の債権者がオリンパスをなんとか救おうと思っていただけるとしたら、それは内視鏡事業の魅力以外ない」ということだったんですけど「カメラはどうでもいいのか」という批判も少なくないんです。

津田:当然「それ以外は潰せばいい」という文脈ではないですよね。

宮田:もちろんもちろん。「オリンパスには、特に内視鏡事業という強み、魅力がある」と思っていただけているうちは、まだチャンスはあると思っている、というお話ですから。逆にいえば、内視鏡事業が傷ついて、それを見ていて「これはダメだな」と債権者が判断すれば、本当に立ち直れなくなってしまう。

津田:メールをくださった教授の大学の対応なんかはまさに恐るべき事態の一つですよね。

宮田:はい。内視鏡事業がダメになったら、本当に融資がストップしますよ。それか、それか融資条件を変える。1年だったものを3カ月で返してくれ、と。上場廃止というのは正直な話、当該企業がコミットできることではありませんから。

津田:市場や証券取引所の判断ですもんね。

宮田:でも、同じ一発アウトでも、自らの事業を守ることはまだできるはずなんです。あの先生は厳しいことをおっしゃっているけれど、私にとっては応援メッセージでもあるんですよね。実は、あの先生はあるメディアに投稿するらしいんです。「宮田さんのところにも送るけど、自分の名前でメディアに投稿する」とおっしゃっている。そうやって警告を発してくれるありがたい方々がいるうちに従業員がなんらかのアクションを起こさないと、本当に市場からもユーザーからも見放されますよ。

津田:今、何人体制でサイトを運営しているんですか?

宮田:情報を発信するのは私で、サイトの運営やサーバの管理は実は1人なんですよ。

津田:その方がサイトの管理や編集から、メールの振り分けまで担当なさってるんですか?

宮田:ええ。おそらくほとんど寝てないと思います(笑)。実は、その人、アメリカ人なんですよ。日本人の奥さんと結婚されてて、30年日本に住んでいる。だから、日本語もペラペラで、しかもお坊さんでもあるんです。だから、アメリカの名前はもちろんもってるんですけど、普段使っているのは、日本語の僧名なんです。彼はMr.ウッドフォードの個人的な友人なんですけど、本業は企業IR(情報報告、情報開示)の専門家、いろんな企業のトップと直接話をする立場の人間で、その一人にMr.ウッドフォードがいたんです。そんな専門家の目から見た時、私の活動は「いいことだから協力は惜しまないけれど、あまり反響は期待しないほうがいいかもしれない」という冷静なものでした。

津田:ところがその見込みは外れ、大きなうねりになった。

宮田:とても個人サーバの端っこで済む範疇の話ではなくなってしまいました(笑)。14日には、急遽彼の息子さんを手伝わせることになったって言ってましたけど、それも完全なボランティアベースなんです。それだけに、彼をはじめ、無償で協力してくださっている人たちのためにも絶対にオリンパスが再生する道を見つけなければいけない。

津田:一方、宮田さんのお立場は? サイトを初めて拝見させていただいた時、宮田さんのメッセージがものすごく胸に響いたんです。この問題に対するスポークスマンとしての役割を果たそうとしているのかな、と思いました。

宮田:確かにスポークスマン的な立場ではあるものの、そうなりたいわけではないですね。目的はただ一つ、Mr.ウッドフォードの復職だけですから。それが叶えるためならスポークスマンもやるというだけで。高山さんは過去に何回か「ウッドフォードさんの復職はあり得ないです」っておっしゃっていて、おそらく、その発言に捕われちゃっている。でも、一度それを断ち切って、オリンパスにとって今何をするのが一番いいのかという立場から、Mr.ウッドフォードに「あなたが正しかった。私たちが間違えていた」「だから戻ってきてほしい。戻ってきたら私たちは身を引きます。手伝えることがあればもちろん手伝う」と言ってもらいたい。そういう形で彼の復職を実現させてほしいんですよ。

津田:先ほど、人が集まったら活動内容を第2フェイズに移すとおっしゃっていましたが、具体的にはどのようなことを?

宮田:質疑応答もそうですし、あとは今回のようにメディアの取材にできるだけ応じて、活動内容をより広く周知していただいて、さらにサークルを拡げていきたいんです。今はお昼ですけど、今日はこのあと21時まで取材で埋まってますし(笑)。

津田:そして、一方のオリンパスは今後はウッドフォードさんを復職させ、企業としては内視鏡事業をコアコンピタンス(他社が真似できないその企業ならではの能力、力量)にして、再建の道を模索するべきだ、と。

宮田:それ以前に一番考えなきゃいけないのは、クレディビリティ(信頼性、確実性)ですね。何かを言ったら、それを信用してもらえる。今は確実にその状態にはありませんよね。「我々は何も悪いことはしていない」と言っていたのが「実はしていましたすみません」じゃね……。明らかに嘘を吐いていたわけですから。

津田:個人的に意外だったのが、第三者委員会の調査結果でクロという結果が出てきたところですね。お手盛りの結論ではなく、明確にクロという結論が出て、彼らも非を認めざるを得なかった。

宮田:あのプライスウォーターハウスクーパースのレポートを見れば、いかにマズいかは素人でもわかりますよ。3つの小さな会社を700億円で買い取って、次の年に65~70%にライトオフ(評価切り下げ)。普通に経営していたら、そんなことが起こるわけがない。だから、そんな売買がなされた時点で気づかなきゃいけないのに、結局「FACTA」に暴かれて、Mr.ウッドフォードが証拠を集めて「これはダメだ」となるまで気づかなかった。その事実を突きつけられても頑なに認めなかった。確かに今の経営陣だってある面では被害者ではあると思うんです。彼らもきっとダマされていたんでしょうけど、そんな事情や「今、彼らがどれだけ必死にやっているか」なんていうことは、市場やユーザーにとっては関係ないことなんですよ。やっぱり、今の経営陣の正当性っていうのは認められませんよね。

津田:その正当性はどうやって回復するべきだとお思いですか?

宮田:ガバナンスに対する正当性がない中で何をするべきかといえば、全部ウミを出す。「完全にこれで不正はありません」と言えるようにならないと。ただ、20年間「何もない」と言ってきておきながら、実はいろいろあった現在の経営陣が言っても正当性はないし、信用されるわけがない。これを言って信用されるのは、Mr.ウッドフォードだけですよ。そして、このハードルをクリアしたら、次は再発防止です。今回の件を糧にして、コーポレートガバナンスとはどんなものなのか、その核心を理解して、その運用に魂を入れないと。ガバナンスとは社内取締役に著名人を起用することなどではないんです。社内社外関係なく、取締役ひとりひとりが、ガバナンスと経営とを切り分けて考えられる体制を作らなければなりません。今のオリンパスの状況を考えれば、欧米の一流レベルに届くくらいの体制を作り上げないと、まず信用は勝ち得ない。当然、日本の経営者にはムリでしょうね。

津田:だからこそウッドフォードさんの復職が重要な鍵になる、と。

宮田:そうです。そして最後に、以上の2点が実現できた時、今度は従業員が、自分たちはどこまで追い詰められていたのか、それこそ、カルロス・ゴーンが来た時の日産以上に落ちようのないどん底まで落ちていたことを自覚したうえでビジネスを展開する。今後、内視鏡事業が致命傷を受けるようなことさえなければ、世界から絶賛されている経営者のもと、完全にクリーンで、完全なガバナンス体制を確立することで、奇跡は起こせると思っています。

津田:企業としては今、最大のピンチを迎えているかもしれないけれど、それを乗り越えることでチャンスに変えていくしかない、ということですね。一方、メディアの報道についてはどんな印象をお持ちですか? 「FACTA」の第一報からすべてが判明するまでに3カ月以上かかっている。フィナンシャル・タイムズやウォールストリート・ジャーナルといった海外メディアに比べて、日本の新聞・テレビの対応は明らかに遅かったわけですよね。しかも、日本の新聞はウッドフォードさんが解任されたときに、オリンパス側の主張を一方的に流して終わりにしてしまった。第一報は日本発だったのに、海外メディアに完全に出し抜かれてしまっていますよね。

宮田:そうですね。

津田:もしも海外メディアのような報道が国内でもあって、オリンパスのガバナンスを問う声が高まったり、調査報道が早い段階からなされていたら、オリンパスの監理ポスト入りも、違った展開があったとも思うんですが……。

宮田:先ほど申し上げたとおり、今、私の頼りはそのメディアしかないのでなんともお答えしにくいんですが(笑)、それはそのとおりだと思います。「FACTA」のサイトで阿部(重夫・「FACTA」発行人)さんのブログにもありましたが、[*4] Mr.ウッドフォードの発言をはじめ、国内でオリンパスについて本当に内容のある記事が書かれたのは、かなり遅くになってからですよね。しかも、ほとんどが「ウォールストリート・ジャーナルではこうらしい」とか「トムソン・ロイターがこう伝えている」といった内容に終始してしまっている。

津田:国内企業のことなのに、なぜか伝聞形式でしたね。

宮田:そういう意味では日本のメディアも今回の一件を反省しているんじゃないですか。本当に取材してあっと驚く記事を書いたのは阿部さんのメディアだけですから。

津田:宮田さんのところには今取材が殺到している状況ですが、「FACTA」からの取材は?

宮田:一切ないです。取材を受けてないから、今後どんな内容の記事を仕込んでいるのかまるでわかならいんですけど「FACTA」はある意味、かわいそうだな、という気もするんです。あそこまで圧倒的な記事を出したものの、月刊誌という性格上、どうしても情報にタイムラグが生まれてしまう。そのため、今も彼らの成果である話題やネタが、彼らの与り知らないところで他のメディアによってワーッと掘り下げられてしまっているじゃないですか。もしも、12月発売号で続報を打っても霞んじゃうんじゃないかって思うんですよ。日本のメディアは、彼らが一番最初に報じたということに対して評価していない。そもそも「FACTA」という名前をクレジットしていないですし。

津田:海外メディアでは「『FACTA』が報じたことをきっかけに」「日本の経済誌『FACTA』によると」と、たいてい固有名を出しているのに、日本の新聞は一切出さないですよね。

宮田:「一部報道によると」だけですよね。本来なら彼らに正当なクレジットを与えるべきです。

津田:ただ、オリンパス社内やOBの中にも、ウッドフォードさんに対する批判同様「『FACTA』がああいう記事を出さなければこういうことにはならなかったんじゃないか」と恨んでいる人もいるんじゃないですかね。

宮田:いると思いますよ。ただ、先ほど申し上げたとおり、私も含め、多くの関係者の最初の反応というのがあまりにも軽すぎた。せいぜい発行部数が3万部くらいのニッチなメディア。しかも、どちらかというと、センセーショナルでタブロイド的な記事が多いという印象のある媒体だから、大丈夫だろう、と。多くの人が「FACTA」をそういう先入観で見ていたからこそ、先ほど津田さんがおっしゃったように、あの記事が本来巻き起こすべき、つまりは、タイムラグの3カ月間のうちに起きるはずだった小さな騒動が起こらず、ここまで事態が深刻化してしまったんですよ。それを「FACTA」のせいだというのはお門違いでしょう。

津田:活動が大きな反響を巻き起こしながら第2フェイズに突入した今、お考えになっている今後の展開とは?

宮田:うーん……。引き起こした反響の大きさには驚いていますが、これで図に乗って、オリンパスに対して「こうするべきだ」「こうあるべきだ」などと言い出すつもりはありません。私は社内に籍のある人間ではないですから。私の呼びかけに応じてくれた内部の人たちがそういうことを経営陣に対して言えるようになるまでこの活動を続けていく。そういうアプローチを続けていくだけですね。ただ今回、インターネットっていうのがいかにすごいのかには本当に驚きました。

津田:特に速度感が既存メディアとは全然違いますもんね。

宮田:11日の17件から始まって、わずか3日でパンクするほどの反応が寄せられた。自分の書いたものがあっという間にこれだけの反響を呼び起こしてしまう力をもったツールっていうのは、ある意味では恐ろしい存在ですよ。特に私の世代は「やっぱり新聞は拡げて読まないと」っていうアナログな感覚をどうしても捨てられないんですけど、本当に最先端を知ろうとしたら今やネットを使うしかないですよ。私ももし若かったら、オリンパスに就職しないで、インターネット関係の仕事をしていたかもしれない、と思うくらい驚かされましたから(笑)。

津田:あはははは(笑)。インターネットって熱量が伝わりやすいんですよ。たとえば、日経新聞が取材した宮田さんの記事って、あっさり風味だったじゃないですか。[*5] 「Olympus Grassroots」にある、あの熱さはちょっと伝わってこなかった。もちろんそれが新聞特有の客観報道のいいところではあるんですけど、宮田さんがなぜこのようなことをやり始めたのか、その核心に触れたいなら、サイトを見るほうが手っ取り早いし、伝わりやすい。そして、特有の速度感をもって、熱に触れたい人たちに一気に拡散していくんですよね。

宮田:ただ、既存メディアがすべてダメだというわけでもないんです。実は、私、この活動を始めるまで、取材ってほとんど受けたことがなかったんです。

津田:あっ、そうなんですか。意外ですね。

宮田:もちろん、取締役や社長という立場上、記者会見や新製品の発表会などで壇上に立たされたことはありますけど、私の考えを書いてもらうっていう経験は1 回もなかったんです。それだけに偏見もあったんですよ。新聞や雑誌の記者さんっていうのは、取材前から頭の中に記事の大まかな構成を作っていて、その内容をサポートする発言を拾って書くもんだろうという。ところが、サイトスタート時に取材してくれた朝日新聞の方(奥山俊宏記者)にもそう伝えたところ「そんなことはない」と。そうなると、もうあとは彼に任せるしかないんですけど、実際に彼は、新聞記事とは別に、2時間ちょっとのインタビューを全部一言半句違わずにウェブに掲載してくれたんです。[*6]結局、あれが私の中ではすごく大きな体験だったんです。第2フェイズの活動の一つにメディア露出を選んだ理由にもなっている。

津田:確かにマスメディアの中にも、既存メディアでの報道スタイルとは別に、そうやってウェブだからこそできるスタイルを模索している方は少なからずいらっしゃいますよね。

宮田:ええ。最初の取材でしたし、ドキドキしましたし、えらいちぐはぐな受け答えになってしまった部分もあるんですけど、それでも丁寧に拾ってくださるメディアの方がいることがわかったのは、大きな収穫でした。そして、今も取材に対するスタンスは、基本的にはあの時と変わっていないんです。「(オリンパスの取締役だった)1995~2006年までの私は決してクリーンではない。それを承知の上で発言を受け止めてほしい」。そうお伝えしてからスタートする取材スタイルがあの時できあがったんです。そのおかげで、今回、質疑応答コーナーで公開した株主さんの「お前も元取締役で共犯なのに、なんで自分の立場を棚上げして抗議するんだ」という発言についても、比較的ご理解いただきやすい。はじめから常に申し上げていることですから。そういう意味でも朝日新聞には本当に感謝してますね。

津田:親子2代で90年近くお勤めになっていた宮田さんにとって、オリンパスとはどんな会社ですか?

宮田:そんなに特別な、誰も持っていないような愛着があるというわけでもないんですけど「技術に自信をもてる」「いい商品を出していく」ということこそがオリンパスのDNAだとは思っています。そして、私はこれがすごい好きなんです。マネーゲームとか、もっと手っ取り早く儲ける方法はいくらでもあるとは思うんですけど、愚直に物作りをしている企業だからこそ非常に愛着がある。

津田:では、それこそ今回発覚した巨額のM&Aのようなものは……。

宮田:ちょっと苦手ですね。だから、もしオリンパスに何かを言えるとするならば、高山さんに「一番会社にいいことはなんだ」という観点に立ち返ったうえで、勇気を振り絞って声を上げていただきたい。そういうことですね。[*7]

津田:支援している方々や、ネットでこの記事を見て今回の事件に注目している人たちへ何かメッセージはありますでしょうか?

宮田:11月11日のサイト開設以来、多くのレスポンスをいただいたうち、私がお返事できているのは142件。1週間足らずにしてはよくやったとは思っているんですけど、私からの返信が届いていない方ははるかにたくさんいらっしゃる。しかも、今、サーバが不安定な状態にあるから、声を発している私の様子がサイトを通じて見えにくくもなっている。「あれだけ大騒ぎしてサイトを開設しておいて、なんだ」とお思いの方も多いはずですし、その状況については本当に申し訳なく思っています。それだけに今進めている、声を上げてくれた方、声を寄せてくれた方、実名登録してくれた方からのご質問やご意見と、それに対する私なりの応答とをペアで発信していくことで、みなさんやオリンパスに向けて「今、マジョリティはこういうことを知りたがっている」「こういうことに納得いっていないんだ」ということを知らせていきたいですね。

津田:その開示した情報がさらに多くの人たちを巻き込んで、また、議論の材料になっていくわけですよね。

宮田:ええ。そして、できるだけ早くこの活動を終わらせたい(笑)。

津田:12月14日の決算書提出〆切前にひと区切り付けたい、と。

宮田:ひと区切りというか、目指すべきは完全解決です。正直な話をしてしまえば、今の我々の体制で活動を続けるのは、だいぶんキツくはなってきているんですけど、それでもここで投げるわけにはいかない。とにかく走り続けるので、できるだけ多くの人に耳を傾けてもらいたいですね。

 

[*1] http://sankei.jp.msn.com/affairs/news/111108/crm11110814320017-n1.htm

[*2] http://facta.co.jp/article/201108021.html

[*3] http://video.ft.com/v/1223228352001/Ex-Olympus-boss-alerts-UK-authorities

[*4] http://facta.co.jp/blog/archives/20111026001026.html

[*5]http://www.nikkei.com/news/headline/article/

g=96958A9C93819696E3E6E29D8A8DE3E6E3E3E0E2E3E38698E2E2E2E2

[*6] http://astand.asahi.com/magazine/judiciary/articles/2011111200001.html

[*7] しかし、こうした宮田さんの思いは高山社長には伝わっていないようだ。ロイターの報道によれば、高山社長は社員向けのメッセージで、宮田さんの動きを牽制。「元役員OBによるネット上の運用が始まっているが、このような“雑音”に惑わされることのないように」と社員に非協力を呼びかけている。

http://jp.reuters.com/article/marketsNews/idJPnTK066555020111116

 

▼宮田耕治(みやた・こうじ)

オリンパス元専務。1965年4月オリンパス入社。1995年取締役就任。2004年にオリンパスメディカルシステムズ社長、オリンパス取締役専務執行役員に就任。内視鏡部門や情報機器部門を担当する。2006年退任。2011年11月11日、社長を解任されたウッドフォード氏の復職を訴える「olympusgrassroots.com」(http://www.olympusgrassroots.com/)を立ち上げる。現在、署名活動を展開中。

最終更新: 2011年11月16日

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