- 出版社: 朝日新聞出版
- ジャンル:ビジネス
- 判型:新書
- ページ数:296P
- ISBN:978-4-02-273477-8 (4-02-273477-9)
- 発売日:2012年11月
ウェブで政治を動かす!
著作
この国をあきらめてしまう前に、ぼくたちにできること
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フェイスブックやツイッターで私たちが世界を動かせる時代が、もうそこまで来ている。本書では、「もう政治を信じられない」「どうせ何も変わらない」という閉塞感を抱えた人々に向け、津田大介が新しい政治へのアプローチを説く。
目次
第1章 政治的無関心は何を引き起こすのか
- 筆者が政治に興味を持った理由
- 審議会は官僚の隠れ蓑
- 違法ダウンロード刑事罰化に見る政策決定の危うさ
- なぜマスメディアは増税法案の中身を報じ切れなかったか
- 去勢されていくエリート
- ”課題解決型”の日本だからできること
- ウェブで「著作権問題」が動いた
第2章 ウェブで作る新時代のデモ
- 新たな市民運動の萌芽
- 2012年6月29日という転換点
- 欧州のデモはお祭り騒ぎ
- ソーシャルメディア革命
- 日本ではなぜ暴動が起こらないのか
- サイバーデモが動かした政治の現場
- 現代の奇兵隊になれ!
- 「無意識民主主義」実現のために
第3章 ソーシャルメディア+マスメディア=?
- メディアの信頼は失墜したのか
- 革新的な多メディア時代の連携
- 記者実名ツイッター利用の是非
- 落とされた情報にこそ、真実がある
- アルジャジーラに学ぶ情報の発信法
- 日本人の無謬主義の危うさ
- 「新種のメディア」は生み出されるか
第4章 ネット世論を考える
- ウェブの意見は正しい?
- ネット票で当選はできるか
- ブレる若者たちの影響力
- ネット世論の限界
- 僕らの「声」の精度を上げるために
第5章 ネット選挙にみる次世代の民主主義
- ネット選挙とは何か
- 広範囲・低コスト・リアルタイム
- 若者の投票率は改善されるか
- ネット選挙解禁の歩み
- 政策で選ぶか、人格で選ぶか
- データベース化される政治家たち
第6章 政治家のソーシャルメディア利用術
- 拡散力という最大の利点
- オバマのソーシャルメディア利用術
- 情報が加工されないメディアを
- 非効率な公職選挙法下での挑戦
- デジタルどぶ板選挙とミニ世論調査
- 中国国旗掲揚問題と日本軍キューピー事件
- ソーシャルメディアを政治家が利用する6つの理由
- 偶然性のコミュニケーションが政治を動かす
- 政治家はなぜ動画メディアを好むのか
第7章 問われるソーシャルメディアリテラシー
- マスメディアが喜ぶ「失言」
- 橋下徹は何が違うのか
- 「編集できない」ことのメリットデメリット
- テレビの政治報道の大きな問題点
- 災害後のトンデモ発言の数々
- 煽られやすい政治家といえば……
- ウィーナー議員が拡散した「写真」
- 「えーい、総理になってやる!」
第8章 きみが政治を動かす
- 政治家はメディアたれ
- カギは編集力と集約力
- 政策を実現するのは誰か
- 「とにかくこの日本という国をよくしたいんだ」という思い
- 「である」から「する」の民主主義へ
- 被災地の“バッジなき政治家”たち
終章 ガバメント2.0が実現する社会へ
- 政権交代がもたらしたもの
- 可視化された行政の中抜き構造
- ライブストリーミングの衝撃
- オープンか、クローズドか
- 止まらないガバメント2.0の濁流
- ソーシャルメディアのDNAを取り込め!
- 佐賀県武雄市の挑戦
- シミュレーションゲームを行政に生かす
- オンラインコミュニティの7つの原則
- トライ・アンド・エラー革命
- 政治のクラウド化への試み
- 英国でも進むオープンガバメント
- 民間のイノベーションから学ぶべきこと
- “実現する存在”になるために
- 日本のオープンガバメントの希望の光
「おわりに」に代えて
はじめに
われわれはいつから「政治」に興味がなくなってしまったのだろうか。
テレビで政治のニュースなんか始まったら、即チャンネルを切り替えるし、新聞や雑誌の政治記事なんてしっかり読んだこともない。選挙だって、いつ行ったかも覚えていない。そもそも行く意味が分からない――。こんな、政治に対してあきらめてしまった若者は確実に増えている。
それは投票率を見ても明らかだ。国会議員を決める選挙には70歳を超える人々の80パーセント近くが行っているにもかかわらず、20代で選挙に参加しているのはここ10年近く、40パーセントを切っている(さすがに政権交代が起きた2009年の第45回総選挙は、20代の投票率は49.45パーセントと例年より高かったが)。
先進国のなかでも先陣を切って超高齢社会を迎えた日本。その中で政策のターゲットされやすい有権者年齢の中央値も年々高まっている。第45回総選挙における有権者の平均年齢は51歳。実際の投票者数ベースの中央値は53歳前後だ。急速に少子高齢化が進む日本において、有権者平均年齢が60歳になるのも時間の問題と言える。
政治家たちが権力闘争とパワーゲームに明け暮れる、現在の政局中心の日本政治が続く限り、政治と若者の距離は離れる一方だろう。
加えて、今の政治はとにかく若者にとって「わかりにくい」という問題もある。若者人口が順調に増え、放っておいても経済成長を続けていた時代は、政治に関心を持たなくても、システムが何とかしてくれた。しかし、現在は社会がかつてないほどに複雑化し、それに伴う経済的利害関係や、ステークホルダー(利害関係者)も増えている。そんな状況下で、年々思い切った政策を実現するのが困難になってきているという状況もある。
急速な人口減少局面に入り、3・11によって行政と政治に対して信頼を持てなくなってしまった今、まずやらなければならないのは「わかりにくくなってしまった」政治をときほぐすことだ。その上でわれわれは、人任せではなく、政治に自ら参加していかなければならない。
実は、本書を書いている筆者自身も、本音を言えばほとんど“政治”には興味がない。「政治家にならないか」という誘いがないわけでもないが、政治家になるのだけはまっぴらごめんだ。――では、なぜこんな本を書いているのか。
それは、筆者が一般の人がイメージしている“政治”とは異なる観点に興味を持っているからだ。
多くの人は、政治というとまず権力のギラついた泥臭い人間模様を思い浮かべる。意地悪そうな政治家が誰々に接近したとか、どの党が影響力を持っているとか、誰と誰が敵対関係にあるとかいった、いわば暑苦しいおじさんたちのせめぎ合いだ。このような、ある局面での政治の動向や政党内、政党間での勢力争いは「政局」と呼ばれる。
なぜ、多くの人が政治=政局をイメージするかというと、テレビや新聞、雑誌の多くがこの政局報道に割かれているからにほかならない。そして、こうした政局中心の報道は「政策」に興味がある人間にとってはクソつまらないものでしかない。
情報リテラシーが高い層は、新聞やテレビといった既存の伝統的マスメディアに否定的な人が多いとも言われる。それはこうしたマスメディアの政治報道が政局中心の報道に終始していることも一因になっている。
これでは政治的無関心になるのも仕方がない。われわれは「無関心になっている」のではなく、メディアによって「無関心にさせられてきた」のだ。
本書ではこうした「政局」の意味での政治にはあえて触れずに論を進めていく。
政局ではない政治の一側面――それが「政策」だ。本書は、筆者が何より重要であると考える政策にフォーカスを置き、インターネットのような新しい情報技術を政策決定過程の透明化や、決定過程にどれだけ関与させることができるのか考察していく。
そもそも政策とは何か。ざっくりと言えばそれは、政府や自治体がわれわれの生活をよりよくさせるためにつくったり、定めたりする方針のことだ。
つい最近、方向性が議論になった政策と言えば、TPP(環太平洋戦略的経済連携協定)が挙げられる。TPPとは、加盟国の間で取引される品目に対して関税を原則的に100パーセント撤廃しようという枠組みのことだ。この取り決めに参加すると、食品から家電、自家用車に至るまで、ほとんどの品目が外国から安く輸入されるようになる。もちろん日本製品も安く海外に売ることができる。しかし、その一方で農業を中心とした産業では安い海外の作物に駆逐され、壊滅する恐れも指摘されている。
この政策は多くのメディアで報道され、従来にも増して議論が紛糾した。しかし、市民が本当にこの問題を理解していたのかどうかという点で言えば疑問が残る。NHKが2001年11月に発表した調査によると、「日本がTPPの交渉に参加することに賛成か、反対か、それともどちらとも言えないか」という問いに、結果は、全体で見ると賛成34パーセント、反対21パーセントで、賛成が反対をやや上回ってはいるが、「どちらとも言えない」が38パーセントで最も多い答えとなった(http://www.nhk.or.jp/kaisetsu-blog/100/101408.html)。
「どちらともいえない」という国民の声から「問題が複雑すぎて、判断するには材料が乏し過ぎる」「よくわからない」という本音が透けて見える。
同調査では「この問題について判断するための、政治の場での議論は十分だと思いますか」という質問に対しては、「十分だと思う」はわずか5パーセントで、「不十分だと思う」が61パーセント、「どちらとも言えない」が27パーセントという結果となった。
つまり、国民がいまだこの問題についてはよくわからず、さらに議論が不十分だと感じていたのだ。
TPPは項目ごとに、日本が得する分野も損する分野もある。それらが全部わかった上で、日本はどうグランドデザインを描いていくのか、多くの国民が議論を必要としていた。にもかかわらず、政府と大手新聞社を中心とするマスメディアは積極的にTPPを進めていく方向へ舵を切った。
そうこうしているうちに飽きたのか、メディアもこの問題について報道することは少なくなった。そしていつのまにかどうでもよくなって、TPPのことなんてすっかり忘れてしまった――そんな人も多いのではないだろうか。
政策は、われわれの日常に深く関係していくものであるはずなのに、しっかりと理解して自分で考える人は少なくない。だからこそ、TPPのように国の命運を左右するような政策がより身近になることは重要だ。実際の生活がどのように変わるのか明確に見えるようになれば、「政治」へのイメージはガラッと変わる。
そのための活路となるのがソーシャルメディアを中心としたウェブの積極的な利用だ。
フェイスブックやツイッターをはじめとするソーシャルメディアは桁外れな勢いで利用者が増えており、今や1500万~2000万人の利用者がいるとも言われている。現在、パソコンを利用する日本のインターネット人口は6000万人前後であり、そのうち3~4人に1人がソーシャルメディアを使っている状況だ。
また、近年、政治家や自治体は積極的にフェイスブックやツイッターなどのソーシャルメディアを活用し、彼らの活動はより鮮明に可視化されるようになっている。
前述のとおり、筆者自身も含めて多くの人は、国会の中でどういう議論が行われているのか新聞やテレビだけでは理解できない。だが、マスメディアでは見えにくい部分、国会内の生々しい部分を、政府がソーシャルメディアを利用して発信することによって、政治がどのように動いているのか、従来とは違った切り口で理解することが可能になった。ツイッターを駆使し、80万以上のフォロワーを抱える橋下徹(はしもと・とおる)日本維新の会代表は、そうしたソーシャルメディアの特性を最大限に活かした新しいタイプの政治家だ。
このような「オープンガバメント(政府のオープン化)」の動きは、政治家を決定する選挙にまで及んでおり、近年ネット選挙の議論も加熱している。
本書は、こうした政治とウェブをめぐる近年の目覚ましい動きを追い、オープンガバメントがもたらす近未来の政治像を考えていく。
もし、この本が夢見る未来が実現したら、世代間格差も、地域間格差も消え、市民の声がまんべんなく政治に反映される世界が到来する。インターネットの発達がわれわれに見せてくれたのは、そんな「新しい民主主義」という夢だ。「民主主義」とか言うと何だか大げさに聞こえるけれど、そのとき、少なくともきみは政局ショーの観客の一人ではなく、実際にこの国を動かす一人になっているかもしれない。
最終更新: 2012年11月16日