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テレビ、ラジオ、Twitter、ニコニコ生放送、Ustream……。マスメディアからソーシャルメディアまで、新旧両メディアで縦横無尽に活動するジャーナリスト/メディア・アクティビストの津田大介が、日々の取材活動を通じて見えてきた「現実の問題点」や、激変する「メディアの現場」を多角的な視点でレポートします。津田大介が現在構想している「政策にフォーカスした新しい政治ネットメディア」の制作過程なども随時お伝えしていく予定です。

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観光開発と環境保護で外貨を稼ぐセーシェル共和国の国家戦略とは? (津田大介の「メディアの現場」Vol.15より)

津田マガ記事


(※この記事は2011年12月14日に配信された記事です)

今年の9月14日から24日にかけて、僕はNHK総合テレビの番組「地球イチバン」の取材でセーシェル共和国に滞在しました。インド洋に浮かぶ百以上の島嶼からなるこの国は、美しい自然環境の中、5つ星ホテルが立ち並ぶ高級リゾート地として知られています。ハイクラスな観光客を相手に外貨を稼ぎ、国民の教育費と医療費を無料にするという高福祉を実現するセーシェル共和国は、はたしてどのようにして観光開発と環境保護を両立させているのか。同国の大統領であるジェイムス・アリックス・ミッシェル氏にお話を伺いました。

なお、僕が出演した「地球イチバン」は12月15日(木)20:00~20:43、NHK総合テレビにて放映されました。[*1] 16日からNHKオンデマンドでも見逃し番組視聴として2週間見ることができますので、ご覧ください。[*2] また、このメルマガのvol.3では「津田大介のセーシェルレポート」と題し、セーシェル共和国滞在中に行ったUst中継のもようを再構成して掲載しています。そちらもよければご覧ください。

 

◆観光開発と環境保護で外貨を稼ぐセーシェル共和国の国家戦略とは?

津田:本日はお時間をいただき、ありがとうございます。セーシェル共和国は現在、観光立国として成功しています。「観光を主要産業とする」と決めてから現在に至るまで、どのようにして観光立国化を進めてきたか教えてください。

ミッシェル大統領:もともと船でこの国を訪れる観光客はいましたが、その数は少なく、とても難しい状況でした。しかし1971年に空港がオープンすると、訪れる人の数は次第に増え始めました。セーシェルが美しく楽園のような場所であり、天然記念物などの貴重な自然が残されていることに、多くの人々が気づき始めたわけです。その後、我々は1976年にイギリスから独立し、[*3] 観光地としてのプロモーションを強化していきました。ターゲットにしてきたのは、お金持ちのハイクラスな観光客です。彼らにセーシェルで余暇を過ごしてもらおうと考えました。ハネームーンのカップルに来てもらうため、日本でもプロモーションを行ったことがあります。最近では大規模な投資を行い、5つ星ホテルを何軒も建設しました。我々がこの20年間、特に力を入れてきたのは「観光産業と環境保護の統合」です。[*4] こうして観光は、わが国の経済の柱、外貨を稼ぐ主力産業となりました。

津田:観光客一人当たりの単価を上げることに注力されてきたわけですね。そうして築いてきた「セーシェルブランド」とは、果たしてどのようなものなのでしょうか?

大統領:「セーシェルブランド」とはセーシェルをユニークな観光地としてマーケティングしていくためのコンセプトで、「セーシェル独自の文化を観光産業やプロモーションに取り入れていこう」というものです。今日では数多くの島国が「太陽、海、白砂の美しいビーチ」などを売りにし、観光客が訪れるには最高の条件が整っているとアピールしています。つまり、競争が激しくなっている。そこで我々は独自のブランドを築き上げる必要がありました。セーシェルは人種差別のない平等な社会で、人々が平和に仲良く暮らしている国として有名です。我々は観光客の皆さんに、ここにある調和を体験していただきたいと思っています。また、セーシェルの環境はユニークで、さまざまな動植物が存在しています。種の多様性が備わっていて、世界中でもセーシェルでしか見られない珍しいものがたくさんあるんですね。たとえば「ココ・デ・メール」という大きなココナッツはセーシェルにしか存在せず、ユネスコの世界遺産に指定されています。アルダブラ環礁も同じく世界遺産となっている非常に珍しい島です。[*5] セーシェルには花崗岩の島と珊瑚礁の島両方があるので、観光客はバラエティに富んだ経験ができます。珍しく特別なもの、そして手つかずの自然環境が、まるで楽園にいるかのような気分にさせてくれるのです。

津田:セーシェルでは自然環境を保護するため、法律などでさまざまな規制をかけているんですよね。環境保護に関する話をお聞かせください。

大統領:環境保護においては、我々はもう何年も最前線にいると言ってよいでしょう。現在はちょうど、環境管理と環境保護10年計画の第2回目を終えようとしているところで、これから第3回目の10年計画がスタートします。この計画では、持続可能なかたちで経済開発と環境保護を両立させていこうとしているんですね。たとえばセーシェルには、本島のマヘ島からあまり遠くない場所に「シルエット島」という花崗岩の島があります。ここには植物、昆虫、動物など、数多くの固有種が生息しているため、「生きる研究室」とも呼ばれています。この島には高級ホテルが1軒あります。観光客はこのホテルがあるおかげで、島の珍しい環境を楽しむことができる。そして、観光客がこのホテルに落としていくお金により、環境の保護・管理ができます。つまりホテルは島の環境を損なうことなく完璧に解け合っているばかりか、島の環境をさらに豊かにし、保護し、管理することに貢献しているのです。これは民間企業と共同で行っている正式な事業です。今後はこのように、ホテル建設などの観光開発と環境保護を同時に行っていく予定です。

津田:とは言うものの、観光開発と環境保護には相反するところがあるのではないかという気がします。これらを両立させるうえでカギとなるものはいったい何なのでしょう?

大統領:観光開発と環境保護、そして経済の発展。この3つのバランスをとっていく必要があります。観光開発を継続するには環境保護が必要であり、この国の経済を発展させるには、観光開発が必要ですから。環境保護とともにすべてを発展させていくことが未来へのカギとなるのではないか、私はそう考えています。「自然は人間のものではない」これが私のモットーです。人間が自然の一部なのです。ですから我々は環境を保護し、自然と調和して生きて行く方法を学ばなければなりません。セーシェルが観光地としてユニークな場所であり続けるには、今も未来も環境が生命線です。それこそが我々のパンとバターであり、守らなければならないものだと考えています。

津田:セーシェルでは今後、観光産業をどのように発展させていく予定か教えてください。

大統領:セーシェルを訪れる観光客は現在、年間約20万人です。本島から少し遠い島もあるものの、離島を開発すれば、年間30万人くらいまでは観光客を受け入れられるようになるでしょう。これを実現するには綿密な計画を立て、環境に溶け込むホテルを建設しなければなりません。また、この開発が我々の社会、生活、文化にネガティブな影響を与えないよう注意する必要があります。

津田:環境を考えるにあたっては、自然エネルギーをどう取り入れるかも重要になってくると思います。これについては、どのようなポリシーをお持ちですか?

大統領:自然エネルギーもできるかぎり取り入れていきたいと考えています。まだ充分とはいえないけれど、今後も取り組みを促進していこうと考えています。二酸化炭素の排出を削減し、気候変動を抑制することで、地球環境の保護に貢献していきたいですね。現在は風力タービンによる電力供給を計画しており、もうすぐプロジェクトがスタートする予定です。ソーラーファームを建設し、太陽熱発電を行おうという話もあるのですが、残念なことに建設資金がありません。そこで将来的にではあるけれど、民間企業に商業ベースでソーラーファームを建設してもらい、それを売ってもらって、現在発電のために輸入している燃料を減らしていければと思っています。ホテルには、もっとソーラーパネルによる発電を導入し、少なくとも指定した電力量の一部についてはそれぞれ独自に賄ってほしいですね。風力や太陽熱から発電したエネルギーをできるだけ使い、セーシェルをクリーンな国にしていく。これが国を運営するうえでの私の目標であり、未来への展望です。今後、テクノロジーの進化とともに、海流などを利用した他の再生可能エネルギーを利用する可能性も出てくるのではないかと思っています。もちろんそれにあたっては、たくさんの研究が必要ですけれど。

津田:日本はセーシェルと同じ島国で資源に乏しく、震災や津波、原発の問題で現在大きなダメージを受けています。被害を受けた東北地方が自然環境を立て直し、観光業で食べていくには、これからどうしていけばいいのか。最後に何かヒントをいただけるとうれしいです。

大統領:数か月前に日本を襲った悲劇については、私も日本の皆さんと同じように深い悲しみを感じています。しかし皆さんは、すぐに被害の修復に立ち上がりました。私はその勇気と力を心より尊敬しています。そのような立ち上がる力が、日本を世界有数の経済大国にしたのでしょう。日本の皆さんは今回の出来事を通し、これまで以上に環境保護の重要性に気づいたのではないかと思います。環境保護は国の保護にもつながります。これは特に、難しい状況にある国々にとって大切なことです。国際社会においては、すべての国々が「気候変動」という現実を見つめる必要があるでしょう。今何らかの手を打っておかなければ、沿岸地域だけではなく、地球全体に影響が出てしまいます。我々の住む場所は地球しかありません。未来の人類のため、我々は地球を守る方法を学ばなければなりません。日本は今、環境保護のために正しいことを行い、気候変動の抑制、二酸化炭素の排出削減にも取り組んでいます。私は大統領として2度の訪日を果たし、歴代の首相2人と会談を行いました。特に前回の訪日では天皇陛下にお目にかかる栄誉に恵まれ、一生の思い出が残る旅となりました。ですから、日本には世界にアピールできる美しい自然があると知っています。世界はグローバルビレッジになりました。今後ますます、各国の交流は深まっていくことでしょう。日本の伝統は有名ですから、今後も数多くの観光客が訪れることと思います。重要なのは日本にしかないものを守り、さらに魅力のあるものにしていく努力をし、それを世界の人々と分かち合っていくことだと思います。我々セーシェル人も、日本にしかない宝物をぜひ見に行きたいと思っています。

 

[*1] http://www.nhk.or.jp/ichiban/

[*2] http://www.nhk-ondemand.jp/program/P201100082200000/index.html#/0/0/

[*3] もともと無人島だったセーシェルは18世紀、フランスによって植民地化された。その後、19世紀に入ってフランスがイギリスに領有権を譲渡し、イギリス領になったという経緯がある。

[*4] セーシェルでは環境を汚さないため、多くの規制が設けられている。たとえば、新規に建設されるホテルには原則として電力を自前で供給することが義務づけられており、取材で訪れたRAFFLESは太陽光発電を導入していた。

[*5] 「アルダブラ環礁」とはサンゴ礁が隆起してできた島。1982年、世界遺産に認定された。「アルダブラゾウガメ」と呼ばれるゾウガメが10万頭以上生息することでも知られている。

最終更新: 2011年12月14日

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