有料メルマガ購読申し込み

テレビ、ラジオ、Twitter、ニコニコ生放送、Ustream……。マスメディアからソーシャルメディアまで、新旧両メディアで縦横無尽に活動するジャーナリスト/メディア・アクティビストの津田大介が、日々の取材活動を通じて見えてきた「現実の問題点」や、激変する「メディアの現場」を多角的な視点でレポートします。津田大介が現在構想している「政策にフォーカスした新しい政治ネットメディア」の制作過程なども随時お伝えしていく予定です。

■発行周期
毎月 第1〜第4金曜日
※GW、年末年始を除く
■発行形式
・テキストメール(niconicoブロマガ/夜間飛行/まぐまぐ)
・EPUB(夜間飛行/niconicoブロマガ)
・Kindle mobi(夜間飛行)
・ウェブ(タグマ!/Magalry)※スマホにも対応
■購読料
月額648円
※1配信あたり162円

「メディアの現場」は、以下のメルマガスタンドからご購読頂けます。

  • niconico
  • 夜間飛行
  • まぐまぐ
  • タグマ!

急加速する2ちゃんねる報道の増加の裏には何があるのか

津田マガ記事


(※この記事は2012年4月18日に配信された記事です)

◆急加速する2ちゃんねる報道の増加の裏には何があるのか

 

──匿名掲示板の2ちゃんねるに対して警察が捜索しているという報道が3月以降加速していますね。

津田:そうですね。中でも熱心かつ継続的に報道しているのが読売新聞です。3月7日の捜索報道 [*1] を皮切りに、翌8日には『「2ちゃんねる」サーバー、米や中南米など転々』[*2] という、2ちゃんねるのサーバーの置き場所や管理者、削除担当責任者などが不明で、犯罪に該当する書き込みを削除できない事実が伝えられました。そして、その翌9日には、2ちゃんねるの元管理人である「ひろゆき」ことニワンゴの西村博之取締役に家宅捜索が入った事実を伝える記事 [*3] を出しました。

その後の大きな展開としては、3月28日に本誌の一面に掲載された「2ちゃんねる管理会社、実体なし…日本で運営か」という記事 [*4] です。これは2009年1月、2ちゃんねるがそれまでの管理人の西村博之さんからシンガポールのPACKET MONSTER INC.という会社に譲渡された [*5] ことの検証記事という位置づけです。このあたりの流れは本メルマガのvol.14 [*6] で解説しているので、詳細はそちらで確認していただくとして、ここではメディアでの取り上げられ方について語りたいと思います。まず、2ちゃんねるに強制捜査が入ったのは2011年11月の話なんですよね。そして、シンガポールの会社に譲渡されたのは2009年1月の話で、当時からPACKET MONSTERという会社がペーパーカンパニーで、違法な書き込みに対する法的責任を回避しやすくするためじゃないかという指摘は多くの関係者からされていたわけです。[*7] つまり、本気で読売新聞の記者がこの問題に対して調査をしたいならば、せいぜい数カ月もあれば管理運営の実態がないという今回の記事は作れたわけです。しかし、なぜか昨年11月の強制捜査、そして3月に入って関係者の一斉家宅捜索などが入ったことを受けて、それを後押しするかのような不自然なタイミングで「運営実態なし」という記事が全国紙の一面に掲載した。ここに何らかの政治的判断もしくはリーク情報などがあったのではないか、と見ることができます。

読売新聞はその後も継続的にこの問題を報道。「実態なし」を掲載した翌29日には「2ちゃんねる、警察の削除要請1000件放置」という記事 [*8] を掲載しています。そして、そして先日4月20日にはまたも一面トップで「2ちゃんねるが犯罪温床化、違法情報3千件放置」という記事 [*9] を掲載しました。最近では時事通信が『2ちゃんねる「削除し過ぎ嫌う」=元担当者ら運営実態証言−法的問題、管理者が対応』という記事を掲載しましたね。[*10] 僕のところにも新聞や週刊誌など、いくつかのメディアからこの問題についてのコメント取材、もっというと「削除人の知り合いはいないか?」という依頼がここ2カ月ほど頻繁に来ました。全部断りましたけど。いずれにせよ読売新聞を筆頭に、マスメディアが2ちゃんねるの運営実態を記事にしていくキャンペーンが始まっているということは確かなようです。

実際のところ、2ちゃんねるにはネガティブな情報が日夜書き込まれているし、今回問題となっている薬物関連の情報を交換する掲示板には違法な書き込みもたくさんあります。とはいえ、個人的には「今さら何言ってるの? そんなの常識だよね?」という気持ちもあります。「犯罪温床化」という扇情的な見出しを付けて、これだけの頻度で一面を使い、ネットの負の側面だけを強調する。それが昨年末からの警察の動きと奇妙に連動しているところにイヤな空気を感じますね。

 

──なぜいろいろなマスメディアがある中で読売新聞がここまで積極的なんでしょうか。

津田:まず基本的な話として、読売新聞グループは渡辺恒雄会長・主筆がインターネット嫌いだということがあるんでしょうね。2010年4月に行われた同社の入社式で新入社員に向かって「今はやりのネットの世界では、責任不明の発信者による無責任な言論、他人の名誉に対する棄損行為、流言飛語、わい雑で反社会的な情報の流布、思想体系のない断片的言説のツイッター等が氾濫しており、青少年の教育を害するポルノや出会い系サイトのようなものを規制することもできずにいる。私は、新聞も本も読まず、ネットの世界にのみ侵入している若者は、将来日本を支える指導力、知性、生産力、倫理観等を身につけることができず、国民の文化や民度の劣化を招くものと心配している」と演説をぶってるくらいですから。[*11]

警察は3月に入って西村博之さんをはじめ、関係各所に一斉捜索を始めた。2011年12月6日に発売された「週刊朝日」の「警視庁がたくらむ『2ちゃんねる撲滅作戦』」という記事によれば、警視庁では2011年8月に樋口建史氏が警視総監に、警察庁では2011年10月に片桐裕氏が長官に就任し、その両者がタッグを組んで、警視庁の内部に精鋭によるハイテクチームが結成されたそうです。警視庁はこの件に関する捜査を本格化する過程でマスメディアの記者にもどんどんリーク情報を流しているんでしょうね。

実際、読売新聞の記事においてソースは「捜査関係者への取材でわかった」と書かれています。マスメディアの記事で「捜査関係者への取材でわかった」と書かれている場合、ほとんどが警察から記者への内部情報のリークです。2ちゃんねるにメスを入れたい警視庁は、全国紙を使って2ちゃんねるが違法なことが行われている危険な場所というイメージを作りたいのではないでしょうか。そのため、部数的にも影響力が大きく、ネットに対して元々ネガティブな論調を持っている読売新聞の記者に優先的に情報をリークしているのかもしれませんね。

 

──警視庁はこのキャンペーンで何を狙っているのでしょうか。

津田:狙っているのは2ちゃんねるの撲滅でしょうね。とはいえ、そんなこと実際に行うのは非常に難しいし、捜査する過程でその難しさは警察自体がよくわかっているんじゃないかと思います。ただ、実際に拳は振り上げてしまったわけで、振り上げた拳の落としどころを今探っている段階なのではないか、と思います。拳をどこに落とすか──少なくとも管理人の逮捕ということは視野に入っているんだと思います。

 

──2ちゃんねるの現在の管理人は誰なんですか。

津田:西村博之さんは「元管理人」です。しかし、読売新聞の記事などを読めばわかるように、2ちゃんねるの仕組みは非常に複雑化していて今一体が誰がどのように管理しているのかはわからないようになっている。だから、警視庁はそのあたりの実態解明も含めて西村博之さんに家宅捜索をして、その情報もメディアに流した。警視庁的には西村さんがまだ2ちゃんねるの管理運営に何らかの形で携わっていると見ており、そこから資金の流れなどを解明して、実質的な管理人という事実をつかむことで逮捕まで行くというシナリオを考えているんじゃないかと思います。

 

──実際のところ、西村さんが管理人なんですか?

津田:それは僕にもわかりません。本人は否定していますけどね。間違いなく昔と比べればコミットする割合は減ってはいるとは思いますが、2ちゃんねるの関連会社から彼が何らかの金銭的収入が発生している状況であれば、「関係はない」と言い張るのも無理はあるかな、とは思います。このあたりは産経新聞が記事にしてますね。[*12]

また、2ちゃんねる売却後の2010年に書籍『ブラック会社に勤めてるんだが、もう俺は限界かもしれない』の印税が発売元の新潮社から西村さんに支払われていることが発覚し、彼に対して裁判の賠償金の支払いを求める新潟合同法律事務所の齋藤裕弁護士が印税を債権として取り立てることに成功しました。[*13] 一度は印税の債権は西村さんではなく、PACKET MONSTERが持っていると新潮社は主張し、債権の支払いを拒否しましたが、新潮社に対して出版許諾料の支払いを求める訴訟を東京地裁に起こし、「西村氏とパケットモンスターは実質的には同一視できる」という主張を展開。その後東京地裁から和解勧告が出て、新潮社が債権の支払いに同意したのです。

このあたりの経緯を見ても、2ちゃんねるのビジネススキームにおいて、まだ西村さんが何らかの関与をしている可能性は否定しきれないでしょうね。

 

──西村さんが実質的な「管理人」という認定をされたら、どうなるのでしょ
うか。

津田:これについてはまだ捜査の進行状況もあるので何とも言えないですね。ただ、このキャンペーンの最終ゴールが西村さんの逮捕にあるということが現在の報道を分析する限り、見えてきたように思えます。どのような罪状で逮捕させるのか、その点で相当アクロバティックな法解釈が求められるような気もしますが……。

 

──2ちゃんねると西村さんについてはどのような評価ですか。

津田:2ちゃんねる潰して世の中がよくなるなら早く潰せばいいと思いますけど、実際にはそんなことはないですよね。ある種ああいう場があることがガス抜きになっている部分はあるし、取り締まる側としても、あちこちに違法な情報が散らばるよりかは1カ所にまとまっていた方がいいというのもあるでしょう。僕はネットの面白さの多くは匿名の人が作ってきたと思っているので、匿名を全部規制しようという論には反対です。とはいえ、2ちゃんねるなどで匿名性を利用して事実無根の中傷や名誉毀損、プライバシー侵害などが行われていて、それに対する名誉回復や損害賠償の手立てがないというのも深刻な問題だとは思います。2ちゃんねる側の一方的な都合に基づく削除プロセスや、プロバイダー責任法に基づく個人の情報開示プロセスなどは今後表現の自由に配慮した形で改善していくべきでしょう。今まで手つかずできたそのあたりの議論を進め、法的規制や警察の介入でネットの秩序を作っていくのではなく、ネットユーザー自らがこの問題にコミットし、政策形成過程に参加していかなければ、今後、警察の介入はどんどん大きくなってくるように思えます。

西村さんについては、僕は彼を天才だと思っていますけど、やっぱりそれでも裁判で負けた以上、賠償金は払うべきだろうという立場ですね。西村博之論として面白いのはMyNewsJapanの渡邉正裕編集長による『僕が2ちゃんねるを捨てた理由』(扶桑社)[*14] の書評ですね。[*15] ここで指摘されているように、彼がどのようなスキームで仕事をしているのかは、誰も知らないし、そこに到達できたジャーナリズムも今まではないわけですね。

彼が逮捕されるリスクを背負っていることについては様々な考え方があると思いますが、僕個人は逮捕そのものより、ある種の見せしめ的逮捕が行われることで、警察のネット介入が大きく進んでいくことへの懸念があります。いずれにせよ、この問題は夏までにはまた大きな進展があるんじゃないかと僕は見ています。ネットユーザーはマスメディアがどのように報道しているのかということも含め、成り行きを見守る必要があると思いますね。

[*1] http://www.yomiuri.co.jp/net/news/20120307-OYT8T00731.htm

[*2] http://www.yomiuri.co.jp/net/news/20120308-OYT8T00517.htm

[*3] http://www.yomiuri.co.jp/net/news/20120312-OYT8T00726.htm

[*4] http://www.yomiuri.co.jp/net/news/20120328-OYT8T00220.htm

[*5] http://hiro.asks.jp/54104.html

http://info.2ch.net/guide/faq.html#A2

http://www.j-cast.com/2009/01/02033092.html

http://gigazine.net/news/20090102_2ch_packet_monster/

[*6] http://yakan-hiko.com/BN162

[*7] http://gigazine.net/news/20090105_2ch_court_procedure/

[*8] http://www.yomiuri.co.jp/net/news/20120329-OYT8T00278.htm

[*9] http://www.yomiuri.co.jp/net/news/20120420-OYT8T00167.htm

[*10] http://www.jiji.com/jc/zc?k=201204/2012041400173

[*11] http://anond.hatelabo.jp/20110110052850

[*12] http://sankei.jp.msn.com/affairs/news/120329/crm12032908080000-n1.htm

[*13] http://www.j-cast.com/2010/02/18060468.html

[*14] http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/459405952X/xtcbz-22

[*15] http://www.mynewsjapan.com/blog/masa/59/show

最終更新: 2012年12月20日

ブロマガ

ドワンゴが運営するテキスト配信プラットフォーム。津田大介の「メディアの現場」をメルマガとブログ形式の両方で読めるほか、ブロマガ会員限定のニコニコ生放送「津田ブロマガ eXtreme」や生放送を文字起こしした特別号外も楽しめます。

ブロマガで「メディアの現場」を購読するにはこちらをクリックしてください。

  • 決済方法:クレジットカード、docomoausoftbankのケータイ払い
  • 特典:会員限定ニコニコ生放送、特別号外、会員限定動画

夜間飛行

「受信箱に、本が届く」をコンセプトに、テキストコンテンツならではの読み応えのある記事を厳選して配信。通常号のほか、夜間飛行の企画・制作による津田大介インタビュー記事「津田大介の『メディアの現場』特別号外」を月に一度お届けします。

夜間飛行で「メディアの現場」を購読するにはこちらをクリックしてください。

  • 決済方法:クレジットカード、WebMoneyPayPaldocomoauのケータイ払い
  • 特典:特別号外(月1回)

まぐまぐ

言わずと知れた老舗メルマガスタンド。ユーザー(会員)数、著者数ともに圧倒的な多さを誇るので、複数のメルマガを併読したい人に最適。メールの送信容量に制限があるため、津田大介の「メディアの現場」は数回に分割してお届けします。

まぐまぐで「メディアの現場」を購読するにはこちらをクリックしてください。

  • 決済方法:クレジットカード決済
  • バックナンバーを低価格で購入できる。

タグマ!

PC、スマートフォン、タブレット……と、マルチプラットフォーム対応のサービス。コンテンツを会員制ウェブサイトとして閲覧できるので、津田大介の「メディアの現場」を好きな時に、好きなデバイスで楽しみたいという人におすすめです。

タグマ!で「メディアの現場」を購読するにはこちらをクリックしてください。

  • 決済方法:クレジットカード、コンビニ決済、銀行振込み(pay-easy)、docomoauのケータイ払い
  • 特典:渡辺文重コラム(週1回)
メルマガスタンドとは?
メールマガジンを発行するサービスのこと(ここではプラットフォームも含みます)。メルマガスタンドごとに提供するサービスの特徴や支払方法、特典が異なるため、ご自身に最適なものを比較・検討のうえ、ご購読ください。