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テレビ、ラジオ、Twitter、ニコニコ生放送、Ustream……。マスメディアからソーシャルメディアまで、新旧両メディアで縦横無尽に活動するジャーナリスト/メディア・アクティビストの津田大介が、日々の取材活動を通じて見えてきた「現実の問題点」や、激変する「メディアの現場」を多角的な視点でレポートします。津田大介が現在構想している「政策にフォーカスした新しい政治ネットメディア」の制作過程なども随時お伝えしていく予定です。

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「ゼゼヒヒ」は何を目指すのか?(津田大介の「メディアの現場」Vol.55 より)

津田マガ記事


◆国民投票サイト「ゼゼヒヒ」は何を変えるのか――津田大介、エンジニア・マサヒコが語るゼゼヒヒの意図

(※この記事は2012年12月30日に配信されたものです)

2012年12月19日、津田大介が代表を務める有限会社ネオローグはインターネット国民投票サイト「ゼゼヒヒ」をオープンしました。ウェブサイトに掲載された2択の質問に答え、その理由を投稿するというシンプルな投票サイト。そのゼゼヒヒを通じて見えてくるものは何か、どんな意図が込められているのか――オープンから1週間を経て津田大介と開発を担当したエンジニア・マサヒコへのインタビューを掲載します。

◎インターネット国民投票「ゼゼヒヒ」
http://zzhh.jp/

◆国民投票サイト「ゼゼヒヒ」は何を変えるのか――津田大介、エンジニア・マサヒコが語るゼゼヒヒの意図

 

――まずは国民投票サイト「ゼゼヒヒ」のオープン、おめでとうございます。

津田・マサヒコ:ありがとうございます。

津田:いやーようやくオープンできました。夏ごろから作り始めて、なんとか年内に間に合いました。たくさんの方からポジティブな評価をいただいたり、プレスリリースを出してもいないのにITmediaで記事にしてもらったりして、[*1] アクセス数もまあまあ集まってて、[*2] 滑り出しとしてはうまくいきましたね。

マサヒコ:オープンまでの怒涛の日々を経て、ようやくオープンできてホッとしています。ただ、エンジニアとしてはオープン後もまだまだ山場が続いている状態ではありますが……。

 

――ゼゼヒヒを一言で表すとすれば、「ソーシャルメディア連動の投票&意見表明サービス」ということになると思います。ゼゼヒヒのウェブサイトにツイッターでログインし、質問の回答を2択から選び、その理由を書いて投票するというシンプルな作りになっていますね。回答はツイッターのタイムラインのように時系列で表示され、投票結果はリアルタイムに円グラフで表示されます。はじめに伺いたいのは、ゼゼヒヒの基本的なコンセプトです。どうしてこのようなサービスを作ったのでしょうか?

津田:ゼゼヒヒ、これは自分が作ろうと思っている政治メディアの作成プロセスの過程でアイデアが生まれたんですよね。当初のコンセプトは、ソーシャルメディア上で政治家にさまざまな疑問に答えてもらう場所を作るということでした。解散総選挙が迫ってきていたから、政治家にいろいろな疑問に答えてほしかった。ただ、政治家に政策に関するアンケートを行うのは、すでにマスメディアも市民団体がたくさん行なっているんですよね。そんな状況に加えて、選挙前は政治家にとって忙しさのピーク。選挙前のアンケートに答えるのはかなりの負担になっているらしいんですよ。適当に答えてしまうと後から突っ込まれる材料を作りかねないですし。だから、政治家が選挙前にアンケートに答えることで得られるインセンティブって残念ながらあまりないんです。じゃあ、どうすれば政治家に選挙前に回答してもらえるのか。それを考えました。まず、政治家だけじゃなくて一般のソーシャルメディアユーザーが普段から日常的に質問に答えられるようなプラットフォームを作っておいて、いざ選挙が近くなったら政治に関する質問をピックアップして政治家に投げる。もちろん普通は答えてくれないでしょうけど、ゼゼヒヒはソーシャルメディアで広がる意見表明場ですから、意思表明することが多くの有権者の目に留まるような場であると政治家に認識してもらえれば、その質問に答えることが彼らにとっての「プロモーションの場」になる。だから、まずはソーシャルとしての広がりを育ててアクセス数を伸ばし、ITに強い議員の目に留まるようにするというのが戦略ですね。回答はすべてゼゼヒヒのサーバー上に記録されますから、それが自分の意見のデータベースになっている。もし、政治家がいくつかの質問に答えてくれたら、ユーザーの回答とマッチングさせたりみたいなことも簡単にできますよね。選挙前に急いでアンケートをやるんじゃなくて、日常的に政治的な質問にユーザーや、可能なら政治家にも答えてもらうことで自然とマッチングできるようにする。政治家に答えてもらうために「この質問には答えないとまずいな」という空気を作っていかなきゃいけないし、それには日常的な意見表明のシステムが必要だなと思ったんですね。それがゼゼヒヒの基本的なコンセプトです。

 

――意見表明のシステムが存在するだけでなく、それが日常的に使われていなければならないということですね。今お話いただいたようなコンセプトを実現するための具体的なイメージはあったのでしょうか?

津田:最初から明確に頭の中にあったのは「ソーシャルで広まる」ということです。まずはたくさんの人たちに答えてもらわないと意味がないですよね。ソーシャルでもっとも多くの人々が答えているサービスって何だろうと考えたら、「診断メーカー」[*3] が浮かんだんです。そこで「人はなぜ診断メーカーをやるのか?」ということを徹底的に考えたんです。とはいえ、僕自身は診断メーカーのどこが面白いのかまったくわからないんですよ(笑)。だって、あれって入力された文字列に応じて、ランダムに回答結果が出るだけじゃないですか。でも、そこで気づいたのは「人は話題を欲しがっているんだな」ということなんです。日々特別な出来事が起きる日常を送っているような人でないと、ツイッターに書き込みたくなる話題ってあまりありませんよね。それこそご飯何食べたとか、テレビ番組の話題とか現実のニュースについてどう思うかとかそういう話題しかない。でも、診断メーカーを使えば「こんな診断結果が出ちゃったよ!w」ってツイッターに書き込む話題が生まれるし、それをきっかけに誰かから「当たってるじゃんw」というリプライが飛んでくるかもしれない。診断メーカーが持つ「コミュニケーションの起点」としての可能性をゼゼヒヒに生かせないかと思ったんですね。

 

――診断メーカーがどういう結果を出すかは大した問題ではなくて、そこから生み出される話題やコミュニケーションこそが、診断メーカーが使われている理由である、と。

津田:診断メーカーは純粋なエンタメですよね。何も考えないでみんなが楽しめる間口が広いサービス。でも僕は単に楽しいだけではなくて、もうちょっと楽しみつつも勉強になったり、考えるきっかけになるようなものを作りたかったんですね。とはいえ、「特定の政策についてソーシャルメディア連動で議論や意見交換をしましょう!」みたいなサービスを真面目に作ると、一部の真面目でITリテラシーが高い議論好きしか使わなくなる。いくら仕組みがよくてもターゲットが少ないと人が来ないですから、うまくはいかないですよね。ネット上で熟議を実現しようとすれば、関われる人は限られてしまう。僕は根本的にネット上では複雑な議論はできないと思っているし、僕がやりたいのはネット上の熟議ではなくて、気軽にどんどん意見表明をしてもらうことなんです。ソーシャルでできるだけたくさんの人に参加してもらって、意見表明をしてもらう。そうすることで、何かしらの価値が生まれるんじゃないかなと。だから、僕の中でゼゼヒヒは、診断メーカーよりはちょっと真面目だけど、しかめっ面をして議論をするわけでもない。簡単に意見表明して、みんなの意見読んで楽しむというイメージなんです。そこに診断メーカーとは違うある程度のボリュームゾーンがあるんじゃないかと。

 

――サイト名の「ゼゼヒヒ」ですが、これは故事成語の「是々非々」からきているんですよね? どういう意味を込めて「ゼゼヒヒ」と名付けたのですか?

津田:「是々非々」という言葉を辞書で引くと「一定の立場にとらわれず、良いことは良いこと、悪いことは悪いことと、問題を切り分けて物事に対処すること」と書いてますね。もうそのまんまで、僕は常々目的があるのならその目的に向かって、たとえ立場が違ったとしても協力し合っていくべきというのが基本のスタンスなんです。だから「是々非々」や「呉越同舟」という言葉が好きで、今回はそのまんまの名前をつけました。

マサヒコ:「自分の意見と違うものは十把一絡げで全部ダメ」というわけじゃなくて「反対意見の中にも良い部分はあるよね」ということですよね。

津田:そう。これは7月にやった政治メディア立ち上げに向けたブレスト合宿の中で出てきた言葉なんです。「ゼゼヒヒ」は政治メディアとは異なる存在ですが、政治メディアに繋げるために民意を集約して調査する――その助けになりうるということで、政治メディアとは違うサービスとしてやることになったんです。

 

◇ゼゼヒヒを通して見えてくるもの

――「ゼゼヒヒ」では、まず質問があって、それに対する回答が「賛成/反対」あるいは「支持する/支持しない」というように、2択のどちらかから自分の意見を選ぶという点が特徴的ですよね。でも、総論賛成各論反対のような2択では決めがたい質問もあると思うんです。あえて2択にしたのはどうしてなんでしょうか?

津田:普通のアンケートや調査だと、「どちらでもない」を選択肢に入れることが多いですけど、1問だけ出された質問に「どちらでもない」と思っていたら、答えようとは思わないですよね。でも、2択を迫られると「自分はどっちかな?」と考える。しかし実際には、賛成なんだけど条件つきの賛成だったり、反対だけど条件つきの反対だったり、明確に賛成・反対とは言いづらいことのほうが多いですよね。そんな時に「賛成」を選ぶだけだと「これだと全面的な賛成に思われちゃうかな?」と心配になってくる。しかしそれが「こういう理由で賛成」とか「基本的に賛成だけど、こういう問題もあることはわかっている」というふうに理由を書く動機づけになりますよね。だからゼゼヒヒのインターフェースは投票ボタンを押したときにポップアップで理由を書くウィンドウが出てくるんですよ。ぶっちゃけ「投票」といっても、投票結果を見て何かをするサービスではないので、答えは賛成でも反対でもどちらでもいい。自分で考えて理由を書くこと、そして他人の理由を見ることが重要なんです。

マサヒコ:言い方は悪いかもしれないけど、「極端にやったほうがいい」ということです。たとえば、賛成から反対までを5つに分けて、あなたはどこですかと聞けば、どちらでもない人も、条件付き賛成、条件付き反対の人も、さらっと答えられますよね。でも、2択になるとそうはいかない。極端な選択肢にすることで、理由を書かざるを得ないんですよ。

津田:まさに「是々非々」ですよね。というか、ほとんどの物事って、つきつめれば全面的賛成も全面的反対もあり得ないと思うんです。だからこそ、「賛成だけどここは反対」「反対だけどここは賛成」という意見を表明する呼び水として、最初は2択にすることにこだわろうと。設問によっては3択とか4択みたいなのもアリだとは思ってますけど、それは先の話かな。

 

――ゼゼヒヒへのツイッター上の反応を見てると、意見にグラデーションのない「2択」にすることで、物事を単純化して多数決だけで世論を決めてしまうんじゃないか、ポピュリズムにつながるのではないか、という批判がありますが、今お話されていたことが、それに対する答えになりますね。

津田:ええ、ゼゼヒヒはむしろ問題の複雑さを上澄みだけ切り取って際立たせるサービスだと思っています。11月18日に行われたニコニコ生放送の「『仕分け』を仕分ける 新仕分け 特別セッション」[*4] で民主党の岡田克也・前副総理が「(事業仕分けをやったことで)政策論について、1か100かではなく、40だったり60だったり、そういう議論がたくさんあるんだと知ってもらえたことも、意義あることじゃないかなと思います」とおっしゃっていて、[*5] 僕はその場に参加していたんですが、それこそがまさに真理だと思ったんですね。ゼゼヒヒも、世の中の複雑な問題がどうして複雑なのかがわかる、「複雑なものは複雑なんだよ!」ってことをわかりやすく提示させるツールにしていきたいな、と思ってます。

 

――2択だからといって、必ずしも答えが単純化されるわけではなく、むしろ、問題の複雑さに嫌でも向き合わされることになるんですね。

津田:そのとおりです。それに、みんなが自分の賛否の理由を書いていくと、それを見た人が新たに気づかされることもありますよね。ゼゼヒヒをローンチして1週間が経ちましたが、その間に僕にとって大きな発見がありました。僕は政治的にはリベラルだと思うので、ツイッターにいがちな日の丸アイコン付けて「左翼はけしからん」「民主党はけしからん」と批判してる人たちが苦手なんですよ。今後の人生でそういう人たちの考え方と相容れることはないだろうな、とか思っていたんですけど、回答を見ているとそういう人たちもゼゼヒヒに参加してくれてるんですね。で、質問内容によっては日の丸アイコン付けた人の意見で思わず「なるほど」と納得して同意を押してしまうようなものがあったんですよ。それで改めて気づかされたのは、人間というのはいろいろな考えや意見が「モザイク状」になっているんだなぁと。全体的には相容れない人でも、一つひとつの個別問題に対する考えや意見を取り出してみると、自分にとってしっくりくるまともな意見を言ったりもする。モザイクの中に良い意見があるなら、それを上澄みとして取り出してどんどん現実に反映していけばいいんじゃないかと。ゼゼヒヒは自分自身が偏見にとらわれていたことを気づかせてくれたし、意見が合わないと思っていた人たちとの対話の可能性が見出せたという意味で、大きな発見がありました。

 

――ゼゼヒヒは賛成でも反対でも、それを選択した理由こそ重要だというスタンスなんですね。ただ、賛否の結果も円グラフで表示しています。その結果はどういう意味を持つのでしょうか?

マサヒコ:実際に「ゼゼヒヒ」を作り始める前、サイトのイメージを固めていくために、BLOGOSの「ディスカッション」 [*6] や、Yahoo!みんなの政治の「政治投票」[*7]、海外サイトのポール(世論調査)、あるいは新聞社が実施した調査など、いろいろと調べて回ったんです。その上で、従来のアンケートや意識調査のどこに面白さがあるのか、何がダメなのか、そしてそれをどう面白くできるのか、ということを突き詰めて考えていったんです。その時、最初に思ったのは、アンケートや調査の結果はあまり意味を持っていないということです。ある種の結果を示してはいるんだけど、「賛成が7割でした」とか「反対が多数派でした」という結果だけを見ても、だから何なんだろうと思えてしまう。むしろ「『賛成』を選んだ人たちはどうして賛成を選んだのかな?」と理由を知りたくなったんです。ゼゼヒヒも同じで、1万人が回答をしたからといって、「これがネットの民意です」というようなものにはならない。むしろ、理由込みで意見表明することが重要なんですよ。もちろん、回答の数字にまったく意味が無いと言いたいのではなくて、意見を含めて意味を持つものだと思っています。

 

――ゼゼヒヒが出している質問の中には、複雑だからという理由ではなくて、そもそも知らないから答えにくいというものもあると思うんです。たとえば、第2次安倍内閣の人事発表を受けて、全閣僚の起用について1人ずつ質問していますが、[*8] 回答がたくさん集まっている大臣もいれば、回答が少ない大臣もいる。回答の数に偏りがありますよね。

津田:すべてきっかけなんですよ。閣僚全員分の質問を作ったって、僕ですら全部答えているわけではない。答えられないんですよ。でも答えようとすると、興味をもって調べようという気になるんですよね。改めて「何で?」って理由を問われることで、調べる気持ちが生まれたり、自分の考えがまとまっていったりする。調べていく過程で「なるほど、そうなんだ」と思って政治や社会問題などいろんなものに興味を持つようになる――ゼゼヒヒはそのためのスイッチにもなってくれればいいなと。

マサヒコ:あと、意見表明しようとすると、滅多なことは言えないなってことがわかりますよね。

津田:そうそう。意見表明をしてみると、議論ではないけど、ほかの人の意見にすごく納得して、勝手に「論破された!」と思ってしまうことが僕自身ありましたし。

 

――今、「議論ではない」とおっしゃいましたが、ゼゼヒヒは議論のためのサイトではないということなんでしょうか?

津田:ゼゼヒヒに近いアンケート、調査サイトの中には、コメントに対してコメントがつけられるようなインターフェースがありますよね。でもゼゼヒヒではそんなふうに議論が続けられる仕組みは最初から考えていないんです。

マサヒコ:反論できないようにするというのは、当初から決まっていましたね。

津田:議論の場ではなくて、あくまで意見表明の場だという考えは固まっていたんです。

マサヒコ:意見の応酬をするのではなくて、誰かが良い意見を書いてるなと思ったら、もっと良い意見を出そうという方向に向かってほしいんですよ。

 

――ゼゼヒヒに書き込める意見は、ツイッターより少し短い100文字が上限になっていますが、100文字にした理由は何かあるんですか?

マサヒコ:まず、一つの論点について意見を書ける程度の文字数にしようというのがあったんです。「同意」するにしても2つ、3つと論点を書かれると、こっちはいいけど、あっちは同意できないとなることもあり得ますよね。それに、意見を短く一つにまとめることで、読みやすいコメントにもなります。もう一つは、ツイッターのタイムラインに流せる量に抑えたいということもありました。津田さんは当初からそれを言っていて、質問とURLを1つのツイートで流すためには、長すぎてもいけない。クローズド・ベータの段階でとりあえず100文字で試して、現在もその文字数になっているのですが、もう少し短くできるかもしれないとは思っています。

 

――ゼゼヒヒではほかのユーザーの意見に「同意」できる機能がついていますよね。この同意はツイッターでいう「ファボ(fav)」――お気に入り(favorite)のような機能だと思うのですが、どうして「同意」という言葉を選ばれたんですか? 最近は「いいね!」が流行っていると思うのですが……。

マサヒコ:意見に対してつけるものなので、「いいね!」はちょっと違うかなと思って。じゃあ何がいいかと考えたら、「同意」だろうなと。

津田:そもそも「いいね!」ってあまり好きじゃないんだよね。個人的には「一理ある」でもいいかなとは思ってるんですが……(笑)。

 

――「一理ある」ボタンって、すごく……シブいです……。

津田:でも、ニュアンスとしてはそうなんですよ。賛否が異なる相手でも、その意見に納得すれば「一理ある」って思うじゃないですか。だから自分とは回答が異なる人でも、その意見に納得したら、どんどん「同意」を押していってほしいですね。ネット文化的にいえば「禿しく同意!」的な感じで押してほしいと思います。

 

――ゼゼヒヒというサイトを作るにあたって、参考にしたり意識したサービスはありますか?

津田:具体的なサービス名を言うと、まずは先ほど挙げた診断メーカー。もう1つ意識したサービスということで言えば、ツイッターのトレンド [*9] ですね。ツイッターのバズっている話題に対して、話題になってるリアルタイムなタイミングで意見表明して、残せるようにしたいと思ったんです。今まではバズっている話題についてツイッターに書いても流れていくだけだったけど、ゼゼヒヒを経由して答えてもらうことで、流れてしまうはずだったものが自分の意見表明のデータベースとして蓄積される。これが後々価値を持ってくるんじゃないかなと。ほかには、はてなブックマーク [*10] のコメント一覧画面。一つの記事に対するさまざまな意見を一気に見れるのは面白いですよね。ただ、はてブのコメントってあんまり動きがない感じがする。だからそれをツイッターのようなタイムライン形式で見せられれば、動きが出てきてもっと面白くなるんじゃないかと思ったんです。まあ、だからゼゼヒヒは「診断メーカー+ツイッター(タイムライン+トレンド)+はてなブックマーク」のいいとこ取りを目指したサービスと言えますね。

 

――物事やキーワードにマルバツで答える「コトノハ」[*11] との類似性を指摘している人もいますが、このサイトは参考にしたのですか?

津田:ゼゼヒヒのイメージを固めていく過程で、コトノハのことは考えてなかったですね。まったく頭の中にありませんでした。コンセプトや狙いも違うものだと思います。ゼゼヒヒは、ゼゼヒヒコミュニティを作って広げていくというデザインではなく、ソーシャルで拡散していくというデザインですし。また、質問をユーザーに委ねるのではなく、こちらで作って投げかける――アジェンダ・セッティングをしているというところも大きく違う。

 

――タイムラインの要素を取り入れたのは、具体的にどういう意図があったのでしょうか?

マサヒコ:既存の調査・アンケートサイトだと、答えた人の顔が見えてこないですよね。だから回答結果を見てもリアリティがない。それをツイッターのようなUIにしてタイムラインにすることで、回答者一人ひとりのIDやアイコン、意見が並ぶ――答えた人の顔が見えてきますよね。あとは既存の調査・アンケートサイトって、言わばスナップショットなんです。瞬間的な結果は出ているけど、どういう経緯でその結果に至ったのかということまではわからない。時系列の要素を加えることで、時間をさかのぼって回答の推移を見ることができるようになります。僕が津田マガで担当している「世界のデータジャーナリズム最前線」のコーナーの中でも何度か伝えてきましたが、「こういう調査結果も見せ方一つでこんなに変わる」ということを実践してみたかったんですね。結果だけを出すのではなく、時間という軸・視点を加えることで結果に至る経路も出したかった、と。

津田:たとえば、実際にゼゼヒヒに載せている「東京五輪招致に賛成? 反対?」という質問 [*12] ――2020年のオリンピックを東京に招致するという東京都の動き [*13] への賛否を訊いた質問なんですが、これも東京都の招致活動が進展したり、新たな事実が明らかになったりすることで、賛否や意見が変わっていくかもしれない。そうした移ろいを長期のスパンで見せることができれば面白いし、データジャーナリズム的にも意味があると思うんです。

マサヒコ:同じ質問への答えが1年前からどう変わってきたのか、ということもわかるんですよ。

 

――質問の出し方、運用の仕方によって、その場を切り取るということもできるし、長いスパンで意見の変化を見ることもできるわけですか。そのゼゼヒヒの質問なんですが、誰が作っているのですか?

津田:中心になって作っているのは僕です。でも、外部の人から質問を依頼されて作ったりもしています。たとえば、「音楽を買うならCD? それともデータ配信?」[*14] という質問は坂本龍一さん(@skmt09)から、「今回の総選挙にあなたは行きましたか?」[*15] という質問は湯浅誠さん(@yuasamakoto)から寄せられたものです。いろんな人から意見を聞いてみたい、という時の投げかけとして使えるようになれば、諸問題の活動家に質問を用意してもらう、ということも考えています。あとはうちのスタッフも考えています。

 

――ゼゼヒヒの質問には「『きのこの山』『たけのこの里』あなたはどっち派?」[*16] という柔らかい質問から、「安倍晋三自民党総裁の首相選出を支持するか?」[*17] という硬い質問まで、硬軟織り交ざったいろいろな質問がありますが、質問を作る際の方針は何かあるんですか?

津田:質問の内容はこういうふうにしようという明確な方針はないんです。先ほど、ツイッターのトレンドを意識したとお話ししましたが、ソーシャルで話題になっていて、答えたくなるものなら何でもいいんです。人が答えたくなる質問って、本当にくだらないことから真面目なものまで、いろいろありますからね。

マサヒコ:ゼゼヒヒをオープンする前にクローズド・ベータ [*18] の期間があって、500人くらいの津田マガ読者の方にご協力していただいたんです。ご協力をいただいた方には本当にありがたいなと思っていて、この場を借りてお礼を申し上げます。そのクローズド・ベータの期間中にいろいろなご意見をいただいたんですが、「ちょっと質問が重いです。そう簡単に答えられる質問じゃない」という意見が複数寄せられたんですね。僕はクローズド・ベータでの最大の学びはそこにあったなと思っていて。

 

――簡単に答えられない質問というのはどんな質問ですか?

マサヒコ:「原発に賛成ですか? 反対ですか?」というような質問です。あまりに多くのことが絡み合いすぎていると、すべてを考慮して答えを出すことはできないんですね。先ほど、ゼゼヒヒは複雑な問題がどうして複雑なのかがわかるツールだと言いましたが、その複雑さを理解するためには、問題をある程度分解していく必要があると思うんですよ。たとえば原発の問題だと、「再稼働は認めるべきか」「経済への影響はあるか」「電気は足りるのか」といったように、さまざまなトピックがある。実際に、ゼゼヒヒで出したものだと「電気料金の値上げはしかたない?」[*19] という質問がありますが、これなら答えやすいですよね。このように分解された質問を積み重ねていって、それが20個、30個と集まった時に自分の意見を振り返ってみると、原発という大きくて複雑な問題に対して、自分がどういうスタンスをとっているかが見えてくる。「再稼働には反対だけど、再稼働しないことで起こりうる問題については容認できていない」というようなことが浮かび上がってきますよね。

 

◇ ローンチから1週間――面白かった質問は?

――ゼゼヒヒが始まって1週間が経ちましたが、ここまで出してきた質問の中で印象的なものはありますか?

津田:ゼゼヒヒがスタートした日に投稿した「夫婦別姓にあなたは賛成? 反対?」[*20] が面白かったですね。みんながそれぞれに賛成・反対の理由を書いていて、人気の回答を見てもさまざまな論点が並んでいますよね。「きのこ・たけのこ」の回答も面白かった。すごくくだらない質問なんですけど、みんないろいろ考えて、ここがいい、あそこがいいと褒めたりして、よく考えてるなぁと。

――ネット上では「きのこたけのこ戦争」[*21] とも呼ばれる一大トピックですからね。

津田:あとは「『竹島の日』政府式典の見送りを支持する?」[*22] も支持と不支持の間のグラデーションが意見から垣間見えて面白かった。「ぶっちゃけ、忘年会って世の中に必要?」[*23] では、いい意味で期待を裏切られました。僕は忘年会大好きなので、まあネットユーザー的にも忘年会必要派が多数派じゃないかと思ったんですが、きれいに割れましたね。同じく賛成と反対で真っ二つだったのが「野田政権の取り組み、あなたは評価する?」[*24] という質問。「この部分は認める」とか「この部分は認めない」とかあって、どちらを選ぶこともできるんだけど、どちらかを選ばないといけない。その結果、中間点がうまく出たんだと思います。意見を見てみると、やはり条件つきの回答だということがにじみ出ていますよね。「初デートでサイゼリヤに行くのはあり? なし?」[*25] は予想通りだったというか、意見も結果も非モテ [*26] に偏ってるなぁと。今後はもう少し一般的な女性ユーザーも増やしていきたいですね。

マサヒコ:僕は「音楽を買うならCD? それともデータ配信?」が個人的に印象深かったですね。割合を見ても意見を見ても、「やっぱりCDなんだよね」という人が多いのは意外でした。サイゼリアの質問からもわかるように、ゼゼヒヒのユーザーには何かしらの偏りはあるんですが、そこから想像できる方向とは逆の結果ですよね。でも、ちょっと角度を変えて「音楽を聴くならCD? それとも音楽データ?」[*27] という質問を投げかけてみると、今度はもうデータで聴いているよという回答や意見が圧倒的になった。いろんな角度から質問を投げかけることで、データで聴いてるのにどうしてCDを買っているのかという理由も見えてきますよね。そういう面白さは感じています。

津田:あと、「あなたは今年映画を映画館で見ましたか?」[*28] というような質問も面白いですよね。「こんな映画を見ました」と書いてあると、「あ、そっかこんな映画があったか、見なきゃ」というようなきっかけにもなるし。

マサヒコ:数が集まると、参考になる意見や視点は絶対に出てくるんですよ。「それがあったか!」とか「なるほどね、そんな見方があるんだ」みたいな。

津田:そういう意味でも、コメント率の高さは大切にしたいですよね。たとえば、はてブで1000ユーザーを集めるような記事があったとしても、コメントを残すユーザーはそんなに多くない。それに比べると、ゼゼヒヒでは明らかにコメント率が高くて、意見を表明するのがほぼデフォルトになっている。それはコンセプトとインターフェースが良かったということだと思ってます。今のコメント率を維持しつつ、さらにコメントするインセンティブを高めていけるよう、ブラッシュアップしていきたいですね。1つの質問に対して常に意見が1000個以上寄せられるようなサービスになると、サービス単体でのマネタイズも見えてくるし、さらに面白いことが仕掛けられるんじゃないかと思ってます。

 

◇国民投票サイト『ゼゼヒヒ』の射程

――ゼゼヒヒを公開して1週間が経ち、さまざまなフィードバックがあったと思います。そうした反響を受けて、どんな感触を得ましたか?

マサヒコ:ゼゼヒヒは意外とズレていなかった、という感触を掴みました。ゼゼヒヒへの感想やコメントを見ると、「多数決を目指していないのがいい」「意見がたくさん読めるのがいい」「理由がわかるのがいいよね」と、僕たちの狙い通り、意図通りの反応が得られている。いろんな人から評価をしていただけているので、立ち上がりとしてはしっかりハマったなという印象です。

 

――目下の課題としてはどういうことがありますか?

津田:まずはスマートフォンへの対応とFacebookアカウントでのログインへの対応。この二つをやった上で、より多くの人に使ってもらうことですね。それから、ゼゼヒヒを使って意見を集めたいという人にコミットしてもらって、質問を出してもらいつつユーザーを拡大していく、というのもありかなと考えています。ゼゼヒヒでの意見表明が日常的に行われるようになったタイミングで、質問の作成機能をユーザーに広げるということも考えています。企業向けにも調査、マーケティングツールとして提供して、その代わりに広告を出稿してもらうというようなコラボもできるかもしれませんね。

マサヒコ:ゼゼヒヒのコア機能については、現状でほぼ出揃っているので、スマホ対応、Facebook対応などの細かいところを粛々と進めていきます。大きく変えていくというより、ユーザーが気持ち良くサイトを使えるように細かいところをブラッシュアップしていくという感じですね。サイトを開いていると、投票した人の意見がリアルタイムで追加されてグラフがどんどん変わっていくとか、自分の意見が同意されるとランプが点灯するとか、そういったリアルタイムの要素を入れていく予定です。

津田:あとはみんなが答えたくなるよう質問を着実に更新していくことですね。ツイッターのトレンドや時事ニュースに関連した質問はどんどん出していこうと思います。たくさんの質問を重ねていくことで、トレンドやニュースに対する多角的な見方を提供する、というところを明確にしていきたいですね。

 

――最後に、ゼゼヒヒの今後の展望について訊かせてください。

津田:将来的には、一つひとつの質問をプラットフォーム的に使えるようにしたいですね。その意味でも、東京五輪誘致の質問は面白かったんですよ。賛成意見でも反対意見でも「なるほど、なるほど」と思わせる論点がたくさん書き込まれました。そうした意見を猪瀬直樹都知事に見てもらいたいんですよね。知事に見てもらって、反対意見に答えてもらう。さらに発展させて、ゼゼヒヒを使って都民に意見を求めることもできると思うんですよ。「こういう問題があって、こういう解決策がある」ということを質問にして、それに対する都民の意見をリアルタイムで表明してもらう。審議会や委員会で募集するパブリックコメントとは違う、リアルタイムのパブリックコメントになりますよね。ゼゼヒヒはそのような形でオープンガバメントを実現していくためのツールにもなりうると思っています。今度そのあたりを画面で見せながら猪瀬都知事にきちんとプレゼンをしたいですね。そういうさまざまな政治家との接続方法を考えることで、インタビュー冒頭で答えたような「政治家が日常的に利用できる意見表明場」になっていくと思うので。

マサヒコ:ゼゼヒヒは、社会問題に対するみんなの賛否を反映して、「これが民意です!」と示すためのものではなくて、社会問題をどうしていけば良いのかを考えるときに、具体的に役に立つ意見を出すもの、というイメージがあるんです。「賛成」か「反対」の多数決ではわからない「どうしてそう思うのか」というニーズの部分を抽出することで、「何が問題なのか」「何を解決すればいいのか」が浮かび上がってくる。それを政治家に対して示していけるような存在にしていきたいですね。政治家はニーズを汲み取って解決に導くことができる能力を持っていると僕は思っていますから。

津田:ゼゼヒヒをオープンさせて良かったと思ったのが、いろんな可能性が見えてきたことです。まずはアクセスを増やすことですが、広告などでマネタイズしていって、ゼゼヒヒ専属の編集者を雇えればと考えています。そうすれば、硬軟さまざまな質問を作りつつ、ソーシャルで「今話題にすべき」というタイミングでコミットできる体制を整えていけるかなと。また、ゼゼヒヒにはデータジャーナリズムやオープンガバメント的な方向性もあるし、いろんな可能性があると思っています。そういった部分で、多方面に広げていきたいですね。いまツイッターやFacebookのようなフローなメディアで流れて消えていってしまう「もったいないよね」的なものをストックする場として、Togetter [*29] やNAVERまとめ [*30] が成長していますが、ゼゼヒヒはToggeterやNAVERまとめとは異なるストックの場になりうるんじゃないかと。すごく限定的なサービスではあるのですが、限定しているがゆえの強さもある。実際にオープンしてみたら思った以上にいろいろなかたちで応用できそうだという手応えを感じているので、うまく育てていきたいと思っています。みなさまもぜひ、ゼゼヒヒを楽しみつつ、お友達にも広めていってくださいね!

 

◎国民投票ゼゼヒヒ
http://zzhh.jp/

 

[*1] http://www.itmedia.co.jp/news/articles/1212/19/news111.html

http://nlab.itmedia.co.jp/nl/articles/1212/20/news123.html

[*2] 開始から10日間のページビュー数は約50万PV。月間150万PVペース。

[*3] http://shindanmaker.com/

[*4] http://live.nicovideo.jp/watch/lv115221366

[*5] http://news.nicovideo.jp/watch/nw438475/6

[*6] http://blogos.com/discussion/

[*7] http://seiji.yahoo.co.jp/vote/

[*8] https://twitter.com/zzhh/status/283897798913572864

[*9] http://support.twitter.com/articles/266149

[*10] http://b.hatena.ne.jp/

[*11] http://kotonoha.cc/

[*12] http://zzhh.jp/questions/35

[*13] http://www.tokyo-np.co.jp/article/sports/news/CK2012122202000100.html

[*14] http://zzhh.jp/questions/26

[*15] http://zzhh.jp/questions/27

[*16] http://zzhh.jp/questions/15

[*17] http://zzhh.jp/questions/77

[*18] http://e-words.jp/w/E382AFE383ADE383BCE382BAE38389E38399E383BCE382BF.html

[*19] http://zzhh.jp/questions/18

[*20] http://zzhh.jp/questions/3

[*21] http://dic.nicovideo.jp/a/%E3%81%8D%E3%81%AE%E3%81%93%E3%81%9F%E3%81%91%E3%81%AE%E3%81%93%E6%88%A6%E4%BA%89

[*22] http://zzhh.jp/questions/23

[*23] http://zzhh.jp/questions/29

[*24] http://zzhh.jp/questions/55

[*25] http://zzhh.jp/questions/40

[*26] http://d.hatena.ne.jp/keyword/%C8%F3%A5%E2%A5%C6

[*27] http://zzhh.jp/questions/36

[*28] http://zzhh.jp/questions/57

[*29] http://togetter.com/

[*30] http://matome.naver.jp/

最終更新: 2013年1月3日

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