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テレビ、ラジオ、Twitter、ニコニコ生放送、Ustream……。マスメディアからソーシャルメディアまで、新旧両メディアで縦横無尽に活動するジャーナリスト/メディア・アクティビストの津田大介が、日々の取材活動を通じて見えてきた「現実の問題点」や、激変する「メディアの現場」を多角的な視点でレポートします。津田大介が現在構想している「政策にフォーカスした新しい政治ネットメディア」の制作過程なども随時お伝えしていく予定です。

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福島第一原発観光地化計画とはなにか 東浩紀に聞く「フクシマ」のいまとこれから (津田大介の「メディアの現場」vol.72 より)

津田マガ記事


(※この記事は2013年4月5日に配信されたメルマガの「メディア/イベントプレイバック」から抜粋したものです)

◆福島第一原発観光地化計画とはなにか——東浩紀に聞く「フクシマ」のいまとこれから

(2012年10月16日 J-WAVE『JAM THE WORLD』「BREAKTHROUGH!」の内容を再構成した『ゲンロンエトセトラ #6』[*1] の記事を転載)

出演:東浩紀(作家、批評家)、津田大介
企画構成:きたむらけんじ(『JAM THE WORLD』構成作家)
文章構成:ゲンロン [*2]

※本記事用に元記事のレイアウトを変更し、脚註を追加しました。

 

◇なぜ「観光」なのか

津田:今日は作家・思想家の東浩紀さんをお迎えして、東さんが先ごろ提唱して物議を醸している「福島第一原発観光地化計画」[*3](以下「フクイチ観光地化計画」)を通して、福島県のいまとこれからについて、一緒に考えてみたいと思います。東さん、こんばんは。よろしくお願いします。

東:こんばんは、よろしくお願いします。

津田:フクイチ観光地化計画については、公表されるまえに東さんから直接伺っておりまして、僕もコアメンバーとして参加しております。東さん、この計画の構想は、そもそもいつぐらいに思いついて実行に移そうと考え始めたんでしょうか?

東:僕がやっている会社で『思想地図β』という本を毎年出しているんですね [*4] 。今年7月には『日本2.0』という題名で出版しました [*5] 。「新しい日本のかたちを考える」という壮大なテーマだったので、編集をしながら次は何をテーマにしよう、次のキーワードはなんだろう、と悩みました。その時、僕としてはずっと「観光」というテーマが頭に浮かんでいました。

僕の元々の関心として、人間の低俗で軽薄な欲望を使っていかに世の中を良くするか、ということがあります。観光は、まさにそういった欲望を原動力にして、世界中の人を大量に動員し、繋げている。子どもが生まれてから国外のリゾートによく行くようになりましたが、世界中どこに行っても、日本にいる僕たちと全く同じような服を着て、同じような振る舞いをしている人たちに出会います。政治や宗教では分断されていても、「欲望」を中心に見ると世界がかつてなくフラットになりつつある、ということを実感するわけです。そういった視点から1冊作ってみようかと考えていました。

津田:そういうものが昔からテーマなんですね。

東:被災地の問題にしても、人を助けるって言っても、ただ助けなければという義務感だけでは人はなかなか動かない。そこに行ったら自分が楽しいとか、面白いことができる、という期待があってはじめて動き出す。そういった「軽薄」な欲望を使って何かできないだろうかということで、社会を良くするために観光が使えるんじゃないかな、と考えました。これは、福島とは関係なく、前からのテーマだったんです。

津田:僕も東北を中心にずっと取材してきましたが、いろいろ話を聞くと「外からお客さんが普通に来て普通にものを買ってくれるのが一番うれしい」という反応が多いですからね。

東:そういうなかで『思想地図β』で次何をするかを考えたとき、福島第一原発をどうやって歴史に残すのか、どうやって未来に継承していくのかというと、観光がひとつのキーワードにならないか、と思い当たりました。ただ、最初に「福島第一原発観光地化計画」というフレーズを考えついたときは、「何を馬鹿なことを言っているんだ」と怒られると思っていたんです。ところが、まわりの人に聞いてみたら、みなすごく反応が良くて、それこそが復興への鍵だと言ってくれたので、これは真剣に動いてもいいのかなと。

津田:たぶん、みんな原発事故が何らかのかたちで解決しない限り、なかなか福島に人を連れてくることができないと思っているんじゃないでしょうか? あの事故と直接的に向きあうことで福島への注目を絶やさない——そのとき、「観光」がひとつの鍵になると思った人が多いのかな、と思うんですけど。

東:いろいろ調べ始めてみると、興味深い事実も出てきました。例えば、チェルノブイリ事故 [*6] から四半世紀が経っているんですが、いまどうなっているかというと、なんとけっこう観光地化しています [*7] 。爆発した4号炉の前まで普通の観光客が防護服なしに近づき、写真を撮ってくるツアーがある [*8]

津田:処理ができないから石で固めてしまえ [*9] ってなっている、あのチェルノブイリが、ですか。

東:そうなんです。まさにその石棺の数百メートル手前まで近づいている。日本語でも英語でも、「チェルノブイリ 観光」と検索すればどんどん情報が出てきます。25年経つというのはそういうことなんだな、と。いま僕たちは、福島のあの悲劇を目の前にしてしまっているので、1年2年といったスパンでしかものを考えられない。だから、あんな危険なところには行けないよ、と反応してしまう。あそこは封印し永遠に放置するしかないんだ、みたいな話まで聞きますけど、でも25年という時間はとても長くて、ちゃんと除染をしていけば人が見に来るところになるんですよ。

 

◇「不謹慎」な議論を現実にする

東:あとひとつ考えなくてはいけないのは、広島の問題です。日本で原子力の悲劇というと広島が思い浮かびますが、広島の原爆ドーム [*10] は世界遺産になっている [*11] 。こういうものを「負の世界遺産」と言うんですが [*12] 、マイナスな効果を及ぼしたものでも、人類の資産として記憶に留めなければならないものはたくさんあるんですね。広島の原爆ドームが世界遺産になったのですから、25年後もしくは50年後に福島第一原発が世界遺産になる可能性は真剣に考えるべきです。そのときに、もちろん、廃炉を進めていくとか周囲を除染して復興していくという前提のうえでの話ですが、観光客に対して何を伝えていくか、何を教えていくかということを早めの段階から考えて、復興計画の中に組み込むべきなんじゃないかと僕は思うんですね。

津田:そういった背景からフクイチ観光地化計画が生まれたんですね。いま福島を語ることがタブー視されているようなところがあります。そんな状況下で「福島の観光に原発を使おう」なんて言ったら反発も強いかと思うんですけど、この計画をメディアのインタビューとかで発表されて、どういう反応がありましたか?

東:すごく応援してくださる方もいますけれども、他方ではまず「不謹慎」であると言われます。あと、当事者以外の人たちが軽薄に言うべきではない、と。東京の人間が頭だけで考えて引っ掻き回さないでくれ、という反応はツイートでもありました。もちろん、これらの疑問に対しては真剣に答えていくべきだと思っています。

フクイチ観光地化計画では、津田さんにも入っていただいていますが、それだけでなく、社会学者の方、アーティストの方、建築家の方などを交えた7人のチームをつくっています [*13] 。ウェブサイトをつくって、そこでいろいろな方のインタビューのほか、リサーチや提案の内容を公開していく予定です [*14] 。さらに今後、南相馬やほかの被災地にも足を運んで、現地の方たちとのワークショップも積極的にやっていきたいと考えています。

津田:あくまで福島の住民、特に浜通り [*15] の方たちと対話を重ねる中で計画を綿密にしていこうというお考えだということですね。一方、先ほどは、ゴールというか目的に25年後の福島第一原発を見据えてと話していましたが、いまとにかく福島への関心を喚起していくことが目的なのか、それとも本気で観光地化することなのか、どちらを目指していますか?

東:本気で観光地化といっても、僕たちの提案がそのまま丸呑みされ実現することはまず考えられない。けれども、一部でも実現したいという気持ちで進めています。

津田:いろいろな突拍子もない大きなアイデアもたくさん出すことによって、もしかしたら現実の政策とか観光地化に繋がっていくかもしれない、と。

東:僕はそう思っています。僕たちが調べた限りだと、復興庁の計画では、観光を復興の柱にしようという視点はあまりありません。けれど、数年以内に考えなければいけないときが来る。そのときに僕たちの計画がひとつのたたき台になればいい、と考えています。

あともうひとつ、かつて1960年代に建築の世界で「メタボリズム」[*16] という運動がありました。かなり実験的で前衛的だったのですが、その討議の蓄積がいろいろな都市計画や万博のプランなどに活かされているんですね [*17] 。だから、僕たちの計画でも、たとえ具体的な提案が採用されなくても、そこに至るまでの議論の蓄積が5年後10年後の現実の復興計画に活かされることはありうると思います。

 

◇「忘れてしまいたい」を「行ってみたい」に

津田:東さんはここ1、2年ぐらいで特にそういう考え方を強めています。新しく日本が向かうべき方向のたたき台を示す、という姿勢ですね。それは『日本2.0』に掲載された「憲法2.0」[*18] にも繋がっていると思います。

ところで、先ほど例として挙げられていた広島の原爆ドームも世界遺産に登録されるまではいろいろありましたが [*19] 、もし福島第一原発を観光地化するなかでモニュメント的なものを作るとしたら、どういったものが考えられますか?

東:それこそが僕たちがこれから議論すべきことですね。最終的なアウトプットはまだ見えません。

けれど、個人的なアイデアを言うと、僕は廃炉作業に注目しています。廃炉作業は25年後も続いているはずです [*20] 。僕は、なんらかのかたちで、その作業を見学できるような仕組みを作りたいですね。現実にそういうことが可能かどうかはわかりません。これから科学者の方に意見を聞かなければいけません。あと、福島は農業が盛んなところだったので、農地を除染し回復していく作業も続いていくと思います。除染によってどうやって土地がキレイになっていくのか、除染技術を体感できる施設も作りたいですね。

他方で、福島第一原発の跡地に行くということは、どこか怖いもの見たさ、ヤバイもの見たさという側面があると思います。先ほどの言葉で言うと、軽薄な思いが人にはある。そういう点では、現地に行きスマートフォンをかざすとAR(拡張現実)[*21] で2011年3月11日当時の一日を体験できるというような、エデュテインメント [*22] 的な要素も必要になってくると思います。

津田:博物館化することができるわけですね。

東:お客さんは最初は純粋に楽しむために来るんだけど、帰るときには原子力とはなんだろうという疑問をもったり、大きな事故からこうやって復興してきたんだと思いを馳せたりするような複合的な施設を作れたらいいな、と思っています。

津田:それを問題が落ち着くであろう、25年後とか30年後から考えるのではなく、いまから考えることが重要だということですね。

ところで、東さんのツイッターの発言で少し気になるところがありました。この計画で、福島は放っておいたら世界遺産の登録とか以前に更地になってしまうだろうと書かれていましたね [*23] 。僕もその発言を見てリアルに福島が更地になる風景が頭に浮かんできたのですが、この「更地になるかも」という発言をしたのには、どういう意図があるんでしょうか?

東:実際には廃炉作業には時間がかかるので、5年10年で更地になることはないと思います。ですが、日本社会の風潮として、いままでの自分を忘れたい、大失敗から目を背けたい、みたいなところがある。第二次世界大戦後も、とにかくすべて「一億総懺悔」で [*24] 、いきなり平和憲法をシンボルにして突っ走ってしまった。その無理がいま噴き出していますね。

同じように、いま僕たちは、この間までのエネルギーをどんどん使う社会に対して「忘れてしまいたい」という感情になっていると思うんです。フクイチにしても、建屋の廃墟を残すよりは、撤去してすべてなかったことにしたい、と思っている。原発とは違う例ですが、津波の被災地でも、打ち上げられた船を残すのか壊れかけたビルを残すのか、その問題はあちこちで議論になっていて、撤去される例が多い [*25] 。日本人は、負の記憶を直視するのが苦手なのかもしれません。

津田:東さんがおっしゃるように、東北には、気仙沼の打ち上げられた大型船「第十八共徳丸」[*26] とか、女川の横倒しになったビル [*27] とか、ああいったもののモニュメント化はすでに始まっていて、観光バスに乗って見に来ている人がもういるんですね。

ただ、やはり現地のなかでも意見がわかれていて「見ていると思い出すからなんとかしてくれ」と誰かが言うとなくなる。だけどなくなった後に更地になると、今度は津波すらなかったように思えて、忘れられていく恐怖からやはり残しておけば良かったとなる。積極的に残していくべきか、撤去するべきかというのが住民のなかでフィフティフィフティなんですね。

どこの地域でも同じようなことが起こっています。この1年半で変わってきているということなんでしょうけど、そういう意味でも観光地化計画というアイデアには地元で賛成してくれる人はいるんじゃないでしょうか? とは言ったものの、最後まで根強く反対するような方もいることが想定されます。最終的に観光地化するかどうかは地元の人が決めるべき問題だと思いますか?

 

◇誰が決めるべきなのか

東:難しいですね。この計画については、具体的には国だったり県の計画というかたちになるでしょう。あと、地元の人たちの完全なコンセンサスにこだわっていくと、おそらく時間に負けてしまうところもある。難しい問題ですね。

津田:東さんは、去年中国を取材されていて、四川大地震 [*28] の被害を受けて町ごと移転したところに行かれたんですよね? そのお話をお聞きしてもよろしいですか?

東:2011年の12月に、四川大地震の被災地はいまどうなっているのかを見るため、弊社で取材に行かせていただきました。そのときに驚いたのが、現地では政府のテコ入れで日本よりも意志決定のスピードがはるかに速い。そして大胆です [*29] 。それがいいか悪いかと言ったら、現地の人たちのなかでは反発もあるんですよ。でも、結果としてどうなっているかというと、地震で最も被害を受けた北川という街があるんですが、いまはその北川がまるごと保存されているんですね。街が半分ぐらい水に沈んで、ビルが傾いている状態がそのまま博物館として保存されていて [*30] 、その代わり新北川という街が別のところに作られている [*31]

津田:何キロぐらい離れているんですか?

東:南に数十キロだと思います。北川という街は、渓谷をかなり分け入ったところにあるんですが、その谷間から降りてきた平地に新しい町を作った感じです。北川の住民は少数民族だったので、新北川も、建物のデザインとかライフスタイルを積極的に取り入れた新しい街になっています。そこのショッピングモールでは、少数民族のお土産もいっぱい買えるようになっている。

新北川は、四川省の主要都市である成都 [*32] から高速道路で2時間ぐらいのところにあります。僕が行ったのが日曜日ということもあるのでしょうが、成都からかなりの買物客が来ていました。詳しい取材まではできませんでしたが、おそらく震災復興と少数民族観光を組み合わせた復興策がとられている。先ほども言いましたが、中国なので、現地のコンセンサスをおそらくほとんど取っていない。今回の取材でもそれに対する批判は聞きましたし、日本では同じことができませんよね。けれど、隣の国にはそういう例があるということは知っておいたほうがいい。

津田さんは僕より詳しいと思いますが、いま「仮の街」[*33] という議論があります。原発周辺自治体は、今後5年から10年のスパンではもはや回復が難しい。だからほかの土地に仮の住処を作るということですが、やはり日本の対応はちょっと緩やかすぎるのかな、と思うところはあります。

津田:もしかしたら、20キロ圏内の富岡町や、大熊町、双葉町とかの住民たちが生活様式と既存のコミュニティを維持したまま、新しいところに移転するひとつの参考例になるかもしれないということですよね?

東:繰り返し言いますが、日本と中国は政治体制が違うので、中国がいいとは絶対に言えないです。ただ、観光地化を含む大胆な復興策をとっていることは明らかでした。

津田:日が経つにつれて福島への関心が薄れていくなかで、先日の内閣改造で、原発事故担当大臣が細野豪志さんから長浜博行さんに代わりました [*34] 。このあたりの政治の体制について東さんはどういう印象をもたれていますか?

東:そもそも政権交代も近い [*35] でしょうし、みな政治の混乱に振り回されているという気がします。日本は、本腰を入れて復興策に取り組む政治体制をもっていない。

津田:脱原発・縮原発 [*36] など、いろいろなスタンスがあると思うのですが、東さんはいかがですか?

東:脱原発のつもりです。けれど、即時原発ゼロは現実的に不可能だと思うし、廃炉のテクノロジー [*37] も大切です。先ほどの繰り返しになりますが、僕は「原子力に支えられてきた私たちの生活を見たくない、全部忘れたい、だから反原発」という態度が一番いけないと思います。福島について考えることは、日本の未来について考えることで、だから未来への指針として脱原発を位置づけなければならない。それはじつに知的な挑戦のはずです。廃炉の問題にしても、「廃炉」というといかにも後ろ向きな感じがするわけですが、そうではなくて、「廃炉の技術を開発するのが我々の未来を作ることなんだ」という発想じゃないといけない。

津田:廃炉によって雇用を生み出していくということもありますからね。

 

◇50年後の世代にむけて

東:震災からわずか1年半しか経っていませんが、前に進むにあたり福島を足かせとして捉えている雰囲気があります。若い人たちの間では、福島や被災地について考えることは「正しい」ことで「いい」ことかもしれないけど、僕たちはもっと先に進みたいよ、楽しみたいよ、という感覚があると思います。でも、あえて嫌な言い方をしますけど、もしかしたらいまの日本では、福島について考えることが一番ビジネスチャンスかもしれないし、知的にもチャンスなのかもしれない。福島の未来について考えるのが一番かっこいいんだ、みたいな雰囲気を作ることが、この時代の僕たちの世代のひとつの義務かなと考えています。

津田:また、それがこれからの知識人のやるべきことじゃないかと。

東:そうですね。

津田:自分個人や福島に限られた問題ではなく、日本国民全体の、そして日本の今後を考える上での問題だという考え方を喚起したいということはよくわかります。ただ、最後に東さんにお聞きしたいのが、この計画は自腹で取材したり、研究会を開催されたりしてぶっちゃけ大変じゃないですか。もちろんそれを本にして多少は回収できるんでしょうけど、労力に比べて得られるリターンが東さん個人にはすごく少ないと思うんですが、なんでこんなことをされるんですか?

東:(笑)。いや、それは僕もよくわからないですね。ただ、福島に関してはこういうふうに思ったんです。チェルノブイリの事故のときはソ連体制下で言論統制が厳しかった [*38] 。当時の30代、40代の人間が何を考えたのか、アーティストがどういうふうに反応したのかという記録があまり残っていない。けれども福島は、これだけ豊かな国で、自由にいろいろな発言ができる成熟した近代国家で起きた事故です。だとすれば、僕たちの後の世代が何十年か後にこの時代を振り返ったとき、あのときこんなに面白いことを考えていた人たちがいたんだと、そういうふうに思われるようにすべきだと思います。逆に、そういうことを残せなかったら、僕たちは何のためにこの時代に生きていたのかということになる。

僕は今日、こうやって津田さんとお話しているのですが、個人的に、震災から1週間ほど後、あるテレビの収録で津田さんと話したときのことが忘れられないんです。あの時、津田さんは「これは僕たちの世代が試されているんだ」ということをおっしゃっていた。これは僕も完全に同感なんです。

「フクシマ」は、突然、世界史に残る地名になってしまった。50年後、100年後でもきっと世界中で記憶されている。だからこれは、決して福島県だけの問題ではなく、日本全体の問題です。そして、その事件に応えるためには、「福島から新しい未来が始まった」という状態を日本人全員で作っていかなくてはいけない。こういう大きな事件が起きて、いままで日本という豊かな国で生きてきた僕たちがどういう球を打ち返せるのかということ、それは、いまの時代にリターンにならないとしても、50年後100年後の人間が見れば絶対に評価するはずのことだと思います。

そういう意味で言うと、僕はたしかにちょっと浮世離れしているところがあって、いまの世の中で金が戻ってくるということにほとんど関心がないんですよね。ただ、このプロジェクトは比較的大きくなりつつあるので、スポンサーとかいたらいいなとは思っています。南相馬に行くことひとつ取ってもバスを借りなくてはいけないわけで、その費用とかを考えるといちいち頭が痛い。みなさんに助けて欲しいです。

津田:僕も微力ながらお力添えをしたいと思いつつ、やはり東さんって「学者」なんだなと思いました。100年先、200年先を見据えたものを考えるのが学問なんだな、と。東さんの原点というか、ルーツというか、行動原理を見たような気がしました。まだまだいろいろお話を伺いたいのですが、そろそろ時間になってしまいました。東さん、今日はお忙しいなかありがとうございました。

東:ありがとうございました。

 

《お知らせ》

福島第一原発観光地化計画では、コアメンバーの中から、東浩紀さん、社会学者の開沼博さん、僕の3名によるチェルノブイリ取材の準備を進めています。福島と同じ原発事故を起こした歴史を持つチェルノブイリが「観光地化」した背景を探り、これからの福島を考える上でのヒントを得るための取材となります。

現在、このチェルノブイリ取材の費用の一部を捻出すべく、クラウドファンディングサイトCAMPFIREで支援を募っています。ご支援いただいた方には、チェルノブイリ取材の模様をまとめた約60分のドキュメンタリーDVDなどのリターンを用意しています。このDVDは弊社の小嶋裕一が監督を務めることになっています。

フクイチ観光地化計画やチェルノブイリ取材に少しでも興味を持たれた方は、ご支援のほどよろしくお願いします! 目標金額に到達している場合でも、目標金額は取材・渡航費の一部ですので、引き続きご支援をいただけると助かります!

 

■福島からチェルノブイリへ! 津田+開沼+東が観光地化復興の実態を探るプロジェクト

http://camp-fire.jp/projects/view/617

 

▼東 浩紀(あずま・ひろき)

1971年生まれ。東京都出身。思想家・哲学者・作家。東京工業大学特任教授。専門は現代思想、表象文化論、情報社会論。東京大学大学院総合文化研究科博士課程修了。東京大学客員助教授、国際大学GLOCOM副所長、早稲田大学教授を歴任。株式会社ゲンロン代表取締役、同社発行『思想地図β』編集長。著書に『存在論的、郵便的』(新潮社、第21回サントリー学芸賞)、『動物化するポストモダン』(講談社現代新書)、『クォンタム・ファミリーズ』(新潮社、第23回三島由紀夫賞)、『一般意志2.0』(講談社)など多数。

ウェブサイト:http://genron.co.jp/

ツイッターID:@hazuma

[*1] http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4990524381/tsudamag-22

[*2] http://genron.co.jp/

[*3] http://fukuichikankoproject.jp/

[*4] http://genron.co.jp/shisouchizu_beta1/

http://genron.co.jp/about_shisouchizu_beta/

[*5] http://genron.co.jp/japan20/

[*6] http://www.cher9.to/jiko.html

http://www.jaero.or.jp/data/02topic/cher25/

http://www.rri.kyoto-u.ac.jp/NSRG/Chernobyl/Henc.html

http://www.shugiin.go.jp/itdb_annai.nsf/html/statics/shiryo/201110cherno.htm

[*7] http://www.afpbb.com/article/life-culture/life/2765902/6294595

[*8] http://www.asahi.com/international/intro/TKY201212260957.html

[*9] チェルノブイリ原子力発電所事故で爆発した4号炉は、「石棺」と呼ばれるコンクリートの建造物に覆われていたが、老朽化に伴い、2012年から鋼鉄シェルターの建設が始まっている。2015年に完成予定。

http://www.47news.jp/feature/kyodo/news05/2012/04/post-5490.html

[*10] http://www.pcf.city.hiroshima.jp/virtual/VirtualMuseum_j/visit/est/build/A_dome2.html

http://www.kankou.pref.hiroshima.jp/seeplayexp/see/dome/index.html

[*11] http://masuda901.web.fc2.com/page2ayab.htm

http://sankei.jp.msn.com/life/news/111203/trd11120322250009-n1.htm

[*12] http://allabout.co.jp/gm/gc/66263/

[*13] http://fukuichikankoproject.jp/project.html

[*14] 福島第一原発観光地化計画のポータルサイトはその後予定通り公開された。計画に関する最新情報のほか、関連資料も閲覧できる。

http://fukuichikankoproject.jp

[*15] 福島県東部の沿岸地域。相馬市、南相馬市、広野町、楢葉町、富岡町、川内村、大熊町、双葉町、浪江町、葛尾村、新地町、飯舘村、いわき市が含まれる。

http://wwwcms.pref.fukushima.jp/pcp_portal/PortalServlet?NEXT_DISPLAY_ID=U000004

[*16] 1959年に黒川紀章、菊竹清訓など、若手の建築家を中心に結成されたグループとその設計・都市理論。メタボリズム(新陳代謝)という名の通り、建築や都市は有機的に変化し続けていくべきだと主張し、社会的にも大きな注目を集めた。

http://moriartmuseum.cocolog-nifty.com/blog/2011/07/1-a74f.html

http://moriartmuseum.cocolog-nifty.com/blog/2011/08/2-e397.html

http://moriartmuseum.cocolog-nifty.com/blog/2011/08/3-aa5e.html

http://moriartmuseum.cocolog-nifty.com/blog/2011/08/4-c08a.html

[*17] http://www.nhk.or.jp/kaisetsu-blog/400/101885.html

http://www.asahi.com/culture/news_culture/TKY201110140233.html

http://moriartmuseum.cocolog-nifty.com/blog/2012/05/1-d8f1.html

[*18] http://genron.blogos.com/d/%BF%B7%C6%FC%CB%DC%B9%F1%B7%FB%CB%A1%A5%B2%A5%F3%A5%ED%A5%F3%C1%F0%B0%C6%C1%B4%CA%B8

[*19] http://www.inaco.co.jp/isaac/shiryo/hiroshima_nagasaki/hiraoka/8/8.html

[*20] 東京電力が公表している「福島第一原子力発電所1〜4号機の廃炉措置等に向けた中長期ロードマップ」では、廃炉措置完了の時期を30〜40年後としている。

http://www.tepco.co.jp/nu/fukushima-np/roadmap/conference-j.html

この中長期ロードマップをめぐっては、、茂木敏充経済産業相が「福島の復興を進めるうえでも、廃炉に向けた取り組みを加速しなければならない」として、見直す考えを示しており、6月にも改定される見通しとなっている。

http://www3.nhk.or.jp/news/genpatsu-fukushima/20130307/2230_hairo.html

[*21] http://www.atmarkit.co.jp/fsmart/articles/armobile01/01.html

[*22] 教育(エデュケーション)の要素も持つ娯楽(エンターテインメント)のこと。

[*23] https://twitter.com/hazuma/status/248832581984997376

[*24] http://www.komyoji.net/node/169

http://www.shimousa.net/menu_tennou.html

http://www.asahi.com/area/nagasaki/articles/MTW20120516430530001.html

[*25] http://www.nhk.or.jp/ohayou/marugoto/2013/03/0304.html

http://www.kahoku.co.jp/spe/spe_sys1071/20120518_01.htm

http://www.kahoku.co.jp/spe/spe_sys1071/20120518_02.htm

http://www.kahoku.co.jp/spe/spe_sys1071/20120518_04.htm

[*26] http://photo.sankei.jp.msn.com/panorama/data/2012/0308kesennuma01/

[*27] http://www.asahi.com/special/10005/TKY201107170308.html

[*28] 2008年5月12日に中国四川省アバ・チベット族チャン族自治州ブン(さんずいに文)川県で発生した、マグニチュード7.9(アメリカ地質調査所発表)の地震。中国政府の発表で、死者約7万人、行方不明者約2万人を数える未曾有の大災害となった。

http://jp.reuters.com/article/topNews/idJPJAPAN-31748220080513

[*29] http://shisensyo.seesaa.net/article/269920189.html

[*30] http://www.47news.jp/47topics/tsukuru/article/post_69.html

[*31] http://shisensyo.seesaa.net/article/269514547.html

[*32] http://kotobank.jp/word/%E6%88%90%E9%83%BD

[*33] http://www.mizuho-ri.co.jp/publication/research/pdf/research/r120701keyword.pdf

[*34] この「内閣改造」とは、2012年10月1日の野田第3時改造内閣の発足を指す。12月の政権交代後、同役職は石原伸晃氏が務めている。

[*35] このインタビューの後、2012年12月16日に第46回衆議院議員総選挙が実施され、自民党が単独過半数(241議席)を大幅に上回る294議席を得て、政権復帰を果たした。

http://www.yomiuri.co.jp/election/shugiin/2012/

http://www.soumu.go.jp/senkyo/senkyo_s/data/shugiin46/index.html

[*36] http://www.j-cast.com/2011/07/24101939.html?p=all

[*37] 日本原子力研究開発機構(JAEA)は、850億円を投じた廃炉の技術開発を進める研究施設の整備に着手している。

http://www.kensetsunews.com/?p=8656

[*38] 国家保安委員会(KGB)の秘密警察による監視が行われるなど、ソビエト連邦時代に言論の自由はなかった。

http://www.47news.jp/47topics/ningenmoyou/77.html

また、チェルノブイリ原発事故に情報に関しては、公表の遅れや隠避などがあった。

http://www.rri.kyoto-u.ac.jp/NSRG/tyt2004/imanaka-1.pdf#page=8

http://www.pressnet.or.jp/publication/view/110510_1176.html

 

最終更新: 2013年4月6日

ブロマガ

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